「うわぁあああ、うわぁあああああ! 土方さんだ土方さんだ!」
「なんだ、おまえは」
 目の前にいる土方さんの姿に私はらしくもなくはしゃいでしまった。
 そんな私を彼は怪訝そうな目で見ている。突然やってきた見知らぬ人間が自分の名前を知っていたら驚くだろう。
 不信感を露わにするけれど、私は構っていられない。
 驚きと感動で、いっぱいいっぱいだ。
 だって私の前に立ってる土方さんって、今の土方さんと全然違うんだもん!!
「若い、幼いー!」
 顔の造りはまんま土方さんだけど、幼いの!
 今みたいに厳しくなくて、あどけなさが残るっていうか……そう、可愛いんだ!
 思わず「可愛い」なんて言うと彼はむっとしてみせるけどその様子もまた、子供が無理して大人ぶるみたいで……やばい、可愛すぎて撫でまわしたくなる。
 背だって私よりちょっと低い。
 だから威圧感なんて全然ないし、肩幅もまだまだ子供のそれだ。
 声も今よりずっと高い。
 まさしく、子供、だ。
「土方さんにもこういう時期があったんだなぁ」
「……」
 しみじみと呟く私を、彼はひたすら怪訝な眼差しで見ている。
「ああ、ごめんごめん。別に私、怪しい人間じゃないから」
「いや、どっからどう見ても怪しいだろ」
 残念ながら、かわいげのない所は生まれ持ったもの、らしい。
 いや、でも、今の土方さんにならかわいげのない言葉の一つや二つ浴びせられても平気だ。
 だって可愛いんだもん。
「いいなぁ、可愛いなぁ」
「可愛いとか……男に言うな」
「だって可愛いんだもん。褒めてるんですよこれでも」
「……褒めてねえんだよ」
 ふいっとそっぽ向いてしまう土方さんは、こう怒ったというよりも拗ねたって感じだ。
 気のせいか、頬が若干……赤い。
 やだ、この子、
 死ぬほど、か わ い い。
「可愛いっ!!」
 辛抱出来なくなって、飛びつくように抱きつくと土方さんはぎくっと肩を大袈裟に震わせた。
 その反応がこれまた免疫がないみたいで愛おしい。今の土方さんなら女の子に抱きつかれても、裸を見せられたってきっと動じない。
 何がどうしてああなっちゃったんだろう、このまま大人になってくれれば良かったのに!
「やっぱり持って帰る!」
 持って帰って、今の土方さんに見せてやりたい。
 あなたにもこんな可愛い時期があったんですよ、思い出してくださいって言って、それから曲がらないように私がしっかりと教育を――

「結構、あんのな」

 くつり、と喉を震わせる音が聞こえる。
 笑ったのは分かったんだけど、その声があんまりに似つかわしくなくて私は一瞬呆けてしまって、
 そんな私の肩を軽く押して、その人は、ついと指先を掛ける。
 顎をこう、押し上げるように指先で触れて、
 幼い表情をにやりと意地の悪い笑みへと変えてこう言った。

「多分俺より、あんたの方が可愛いと思うぜ」

 その表情は大人顔負けの色気たっぷりで――



「やっぱり、土方さんは土方さんだった」
 うん、私が甘かった。
 可愛いから、子供だからと侮っていたけど、彼は彼なんだ。
 大きかろうが小さかろうがあんまり変わらない。
 俺様で、強引で、頑固で可愛げなくて、

「昔から、手、早かったんですね」

 そうだよ、私聞いた事あるじゃない。総司から散々。
 昔は土方さん女遊びが激しくて、それこそ会ってすぐにしちゃうような人だったって……
 そういえばどっかの奉公先ではそれが問題で追い出されたとか、なんとか。
「人聞き悪い事言うなよ」
 一人ぼつぼつ呟いてたら土方さんに苦笑で窘められて、
「好みの女がいりゃあ普通の男はこうなるってもんだろ?」
「……そういう口が上手い所も相変わらずですね」
 甘ったるい口説き文句とやらに私は冷めた眼差しを向ける。
 こんな可愛い顔をしてるのに、口が上手いとか……大人になった時が恐ろしい、って大人になったのは「あれ」か。
 もしかしたらこの人生まれた時からこんなだったのかな。
 いやだ、赤ん坊の時から女たらしとか、あり得ない。
 っていうか、妙に慣れてたけど、もしかしてもう経験済み!?
 この人一体いくつよ!?
「何、百面相してんだよ」
「っ!?」
 一人悶々と考えていると耳元で低く囁かれ、うっかり声を上げて飛び上がりそうになる。
 けれどそれよりも先に土方さんの手に強く引かれて、気付けば私は布団の上にまた横たわっていた。
 一体何が起きたのか分からなかった……こういう所も変わらずという所か、感心すればいいのか呆れれば良いのやら、
「って!? ちょ!?」
 のしっと上に覆い被さってくる彼に気付き、私は慌てた。
「なななな、なんで、そんな状態なの!?」
 子供であっても立派に育っている彼の逸物は、既に臨戦状態。
 いや、限界状態? 厳戒状態……?
「そんなもん、したいからに決まってるだろ」
 青ざめて逃げを打つ私に、何を分かり切った事をと彼は言う。
 いやまさにその通りです。
 本能には逆らえないのが生き物というもの。だから、性欲という本能に抗えないというのも分かる。
 け・ど、
「早すぎるでしょ!!」
 さっき、散々したでしょ!!
 もう充分って位に!
 なのになんで、そんな状態になっちゃって、

「そりゃ、若いから――」

 にこりと色っぽく笑う彼は、やっぱり今と何も違わなかった。


  可愛くても狼は、


  黎明録OPの副長が可愛すぎて、つい書いて
  しまったお話。
  でもいくら可愛くても土方さんは狼だと思う
  んだ。