部屋に戻ると何故か、彼女が自分の今し方脱いだ学ランに袖を通していた。
自分には丁度良い大きさの学ランは、華奢な彼女には大きい。
肩はずり落ち、袖からは指先しか見えていない。
おまけにスカートも裾がちょこっと覗く程度、だ。
もう少し長ければ学ランだけを着ているようにも見えるのだろう。それは卑猥だ。
「‥‥なにを、している?」
見れば分かるだろうに、学ランを着ているのだ。
それは分かっていたが、斎藤は思わず問いかけていた。
因みに手に持っているジュースを乗せた盆が多少揺らいでいるのは彼の動揺の表れだ。
問いかけには、あ、と声を上げ、悪びれなく言った。
「ちょっと制服を拝借―」
「‥‥何故?」
「着てみたかったから!」
分かりやすい。
分かりにくい。
そうか、としか言い返せないような、だからどうして、とも言い返したくなるような言葉に、斎藤は何も答えず、扉を閉
める事さえせずにただ固まってじっと自分の制服に身を包む彼女を凝視した。
普通に考えればただ制服を着ているだけだ。
別にその姿を見て思う事‥‥と言えば、大きい、くらいだろう。
しかし、
自分が着ていた物を彼女が身に纏う姿‥‥というのはどうにも男の下心というのを擽るもの、らしい。
おまけに、
「‥‥一って、なんかいいにおいがするね。」
なんて、袖に顔を寄せて言われた日にゃあ、鉄壁の理性というものも崩れると言うものだ。
「抱いても良いだろうか?」
突然、
ジュースを乗せた盆を机の上に置き、扉を閉め、施錠してから、彼は自分の前に膝をつき合わせるような格好で座って、
そんな事を言った。
因みに両の拳は自分の膝の上だ。
背筋をぴしりと正しながら、真剣な面持ちで紡がれる言葉はあまりに似つかわしくなくて、
「‥‥はい?」
は首を捻ってしまった。
聞こえなかったわけではないのだが、彼氏は真面目そのものの口調でもう一度、
「抱いても良いだろうか?」
と訊ねてくる。
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
『抱いても良いだろうか?』
と聞こえた気はした。
だが、突然、そんな事を、そんな格好で言われた所で、ついていけないもので‥‥
「‥‥ぇえと‥‥」
は照れるよりも前に困惑した。
一体何がどうなって、そうなったのだろうか、と訊ねたい。
「‥‥‥」
斎藤は真剣な面持ちで言葉を待っている。
その姿はさながら犬、だ。
待てと言われて待ち続ける犬。
なんだか待たせてしまうのは申し訳無い気がしたが、だからといって「良し」と言ってしまえば有耶無耶の内に彼の望む
とおりに抱かれてしまう事になる。
別に抱かれる事自体は嫌ではないのだが、こちらが心の準備もなく、また、そういうモードにさえなってないというのに
勝手に突入されても困るというもので‥‥
「なんで、いきなり?」
はとにかく、それだけでも聞きたいと思って問いかけた。
なんでいきなり、自分を抱きたいと思ったのか‥‥
「‥‥それはその‥‥」
訊ねると、真剣だったその表情が困惑そうに歪み、視線は一度逸らされた。
『抱いて良いか?』とかとんでもなくストレートに恥ずかしい事を言ってのけたくせに、今更になって赤面する彼が愛お
しい。
は思わず、いいよ、もう何も言わずに抱いてくれ、と言いたくなった。
それよりも前に、斎藤が理由を明かした。
「今の、格好の、あんたを見たら‥‥」
「‥‥今の格好?」
は自分の格好を一度見て、首を捻る。
「一の制服だけど?」
見慣れてるでしょ?と言えば、そうだが、と斎藤は言葉に詰まった。
そうだが、そうではない。
「‥‥俺の、制服を、あんたが着ていると思ったら‥‥」
自分の着ていた物に身を包んでいる彼女の姿を見たら、
「その‥‥突然‥‥思った。」
抱きたいと。
彼女を抱きたいと。
今すぐに。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
はじっと、耳まで真っ赤にしてそう訴える男を見る。
男は自分の膝の上の拳を今一度握りしめて、その、とそろりと視線だけを上げた。
上目に見られて、頼りなげに問われる。
「駄目、だろうか?」
こんな漠然としすぎた理由だけでは、彼女は肌を許してはくれないだろうか?
不安げにそう、問われて、
駄目――
とそこで言えるのは血も涙もない人間だけだ。
「仕方ないなぁ‥‥」
思わず衝動に駆られてよしよしと頭を撫でながらは苦笑交じりに、言う。
およそセックスをするムードとはかけ離れているが、それでも、
「いいよ。
一の好きにして?」
それが、合図で大きな犬は飛びついてきた。
ちゅ、ちゅ、
と肌を吸い上げる音が幾度と無く響く。
吸い上げられるたびに、背筋をぞくりと震えが走り、舌先で舐られるたびに甘い疼きが広がっていった。
「はじめ‥‥ってさ‥‥」
声に、斎藤はちゅむと音を立てて赤く凝った乳首から唇を離す。
彼の唾液でてらてらと濡れているのが卑猥に映り、はそっと視線を逸らしながら言った。
「胸、好きだよね‥‥」
彼は、いつも胸を執拗に責める。
それこそまるでそこに執着でもあるかのように、前戯ではこと胸への愛撫を怠らない。
勿論そこも感じる場所の一つなのだから触れられて気持ちいいのだが、それにしたって、些かそこばかり重点的に責めす
ぎだ。
指で、掌で、舌で、歯、で。
ありとあらゆる手段を使って、彼は丹念に嬲る。
「‥‥おまえ、巨乳好きだろ?」
そうだろうかと首を捻る彼に、意地悪く言ってのけると、
「なっ!?」
斎藤は小さく声を上げて真っ赤になってしまった。
「ち、ちがっ‥‥俺はっ」
そして慌てて言い訳をしようとするが、あまりに動揺しすぎて言葉にならない。
まるで図星を指されたような反応で、はくすくすと笑った。
その度に彼女のまろやかな胸元がふわふわと揺れる。
手の中にある柔らかく甘いそれは‥‥確かに、嫌いではない。
むしろ好きだとは思うが、だからといって別に胸が好きというわけではない。
彼女の‥‥だからだ。
「一が喜んでくれるなら‥‥私は胸が大きくて良かったって事になるのかな?」
茶化すように言って、は難しい顔で黙り込んでしまった恋人の額にキスを贈る。
そうして止まってしまった彼の手に自分の手を重ねると、でもね、と小さく困ったような声で言った。
「あんまり、ここばっかり触らないで?」
「‥‥何故に?」
問い返すと、はその、と恥じらうように視線を逸らしてしまった。
「‥‥あんまり、触られると、明日、ツライ。」
まさか、痛むのだろうか?
表情を曇らせる斎藤には気づかず、は言った。
「敏感になっちゃって‥‥なんか、擦れるたびにえっちな気分になっちゃう、から。」
だから、駄目。
と上目に見られ、斎藤は黙した。
ずくんと腰のあたりが重たくなっていくのが分かった。
同時に、下着の中で性器がひどく大きくなったのが。
一刻も早く、
男は繋がりたいと思った――
「んっ」
指を引き抜くとの口から甘えたような声が零れた。
銀糸が伝い、自分の指と、の女の場所を伝う。
ひくひくと蜜口が収斂を繰り返し、まるで誘うように震えていた。
「はじめ‥‥」
恥じらうような、求めるような声に、我慢が出来ずに男はスラックスの前をくつろげ、下着の隙間から己を取りだした。
そうしてを抱き起こし、もう袖を通しているだけのシャツを脱がせる。
下着も外してしまえば彼女は一糸まとわぬ姿になった。
恥ずかしいのだろう。
視線を伏せて、胸元を隠そうとするのを止めて、キスを贈った。
「恥ずかしがらなくても良い。」
「‥‥でも‥‥」
「あんたは、どこもかしこも、綺麗だ。」
「‥‥一って、たまに、すっごい事言うよね。」
「あんたには負けるだろう。」
柔らかい髪を撫でて、項から背中、そうして細い腰に手を回していざ自分の膝の上に乗せようとして、
「‥‥‥」
視界に黒いものが飛び込んできて、止める。
それは、彼の学ランである。
先ほどまで‥‥が着ていたものだ。
そういえば、それがきっかけで今、こうして彼女を抱いているのだなと今更のように思った。
「‥‥一?」
突然手を止めた彼にどうしたのか?と訊ねると、彼は無言のままに手を伸ばし、そのまま下に敷いて皺になってしまった
学ランを拾い上げた。
「あ、ごめん。」
皺になった事を謝るが、斎藤は気にするなと言った。
そればかりか、
「手を‥‥」
「え?」
「手を貸せ。」
「‥‥手‥‥って、こう?」
言われるままに手を出せば、彼は何を思ったのか、自分の学ランの袖を、彼女に通した。
右を先に、
左を次に。
そうして、ゆっくりと引き上げて衿をきちんと立てる。
「‥‥一‥‥?」
は困惑したような声を上げた。
突然、何故彼は学ランを着せようとしたのだろう。
しかも、素肌に、だ。
「‥‥」
斎藤は、その姿をじっと眺める。
艶めかしい裸体を包んでいるのは紛れもなく自分の制服だ。
普段は己を律する為の制服を着て、こんな淫らな事をする‥‥なんて、なんとも背徳的で蠱惑的だ。
黒い布地から微かに見える白の、なんと眩しくいやらしいことか。
「‥‥良い。」
「え?わ‥‥ちょっ!」
斎藤の呟きに何の事かと聞き返す前に、腰を攫われ、引き寄せられた。
膝立ちになるような形で彼と向かい合うように跨がされ、このまま、彼が事に及ぶ事を悟る。
「‥‥着たまま、するの?」
「駄目だろうか?」
「駄目‥‥って事はないけど‥‥」
出来れば、何も着ない方が良い、とは口の中でだけ呟く。
何故ならば汗を掻くし、万が一汚れないとも限らない。
明日もその制服を着て学校に行くだろうに、一日で洗濯など出来るはずもない。
風紀委員である彼が学ランナシで‥‥などと言う事は考えられないだろう。
まさか、これをそのまま着てこられたら流石のだって困る。
「心配は無用だ。」
「え?」
「もう一着、所持している。」
「あー‥‥そうですか‥‥」
は呆れたような声で呟き、それならば良いのかな、なんて思いつつ、もう我慢できないのだがと胸元に唇を寄せてき
た恋人に意地悪く笑いかけた。
「一って‥‥実はコスチュームプレイとかが好みだったんだな?」
「‥‥‥‥」
「クールな顔して、実は、結構なまに‥‥」
意地の悪い言葉は最後まで言わせない。
ぐ、と腰を掴んで引き寄せると、宛われた熱が一気に飲み込まれた。
「ひぁっ!?」
びくっとその華奢な背が撓り、抗議のために肩に爪が立てられる。
ちりりと布越しに微かな痛みをもたらし、繋がった場所には壮絶な快楽をもたらした。
「いきな‥‥り、ひどっ‥‥」
顔を顰めて反論する彼女に、すまないと、斎藤は謝罪の言葉を告げた。
「もう、待てなかったっ」
「あぅっ!」
ずるりと今度は引きずり出し、瞬時に締まった彼女の膣内を擦る。
まるで精液を搾り取るかのように締まったそれに小さく呻きながら、下腹に力を入れて堪えると、再び、
「っ」
「ふぁっあっ!」
ずぶ、と最奥まで貫いた。
そうして奥深くを犯したまま、ずっずっと、緩くリズムをつけて突くと、強い快楽にの腰がもどかしくうねりはじめる。
「ア、はじ‥‥めっ‥‥」
「良い、か?」
涙で濡れた瞳を細め、快楽を堪えるように眉根には皺が寄る。
我慢しなくて良いと囁きながらこめかみに口づけ、そのリズムを大胆なものに変えていくと、はその許しに甘んじる
ように淫らに腰を振りだした。
普段は高貴ささえ感じるその人の乱れる様は‥‥ひどく、男の欲を煽るものだ。
もっと、その痴態を見てみたい。
彼女が激しく乱れ、縋り、陥落していく様を見てみたいと。
それはある種、男の残虐な欲なのかもしれない。
「ッ‥‥」
は、と荒く吐息を漏らしながら搾り取るような膣の動きに、男はいよいよ耐えられなくなり、動く腰を押さえると、突き
破る勢いで腰を浮き動かしはじめた。
「ああぁっ!!」
一際甲高い声を上げては仰け反り、首にしがみついて激流のように襲う快楽に抗った。
「だ、めっ、はじめっ!はじめっ!」
「っ、っ‥‥ッッ!!」
もはやどこからが彼のものでどこからがのものか分からない。
そこまで混じり合い一つになった身体を互いに貪りながら、共に高みに昇っていく。
ぎしぎしと軋むベッドが悲鳴でも上げるように軋み、
その悲鳴は、それよりも大きなの嬌声にかき消える。
「はじ‥‥め、い、い‥‥っちゃっ――」
泣き出しそうな声が耳元で聞こえた。
その吐息が耳朶を掠めた瞬間、男は華奢な身体を抱き潰すようにして、
「ひっ―――!」
子宮を強く突き上げて、熱い飛沫をぶちまけた。
部屋に戻ると何故か、彼女が制服を並べていた。
とは言っても、彼の着ている学ランではなく、ブレザーやら、セーラー服やら‥‥何故か警察官の制服やら、ナース服や
らも並べられている。
「これは‥‥一体?」
問いかけには、あ、と声を上げ、悪びれなく言った。
「一、どの制服が好きー?」
別に自分は、そういうマニアックな趣味はない。
そう言いたかったけれど‥‥並べられた全ての衣装に身を包む彼女を想像すると、なんだかそれはそれで良い、と思って
しまう彼なのであった。
仮想遊戯
リクエスト『現代パラレル 自分の制服を着たを見て、
暴走しちゃう斎藤さん』
一君って‥‥コスチュームプレイが好きだと思うんだ←
女の子が彼氏の服を着てるのって萌えますよね〜♪
おっきい制服とか、シャツとかパジャマとか。
そして暴走するが良いよ(≧∇≦)b
因みに「仮想」と「仮装」をかけてみました。
「仮装」にしちゃうとまんま、なので、仮想にしてみた
という(笑)
そんな感じで書かせていただきました♪
リクエストありがとうございました!
2010.12.11 三剣 蛍
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