イチゴミルク。
  彼女がよく購買で買ってるのを見かけるから、試しに買って飲んでみた。

  「あまい。」

  女の子はよくこんな甘ったるいものを飲めるもんだ‥‥
  一人呟いて、ストローから口を離す。

  「‥‥沖田さんがイチゴミルク?」
  めずらし。
  とそれを見た千鶴ちゃんが驚きに目を丸くした。

  「千鶴ちゃんがよく飲んでるから、どんなものかと思って‥‥」
  「どうでした?」
  「‥‥あまい。」
  飲めたもんじゃない。
  と眉を寄せれば、千鶴ちゃんはくすくすと笑った。
  「女の子は甘い物が好きだよね。」
  「そうですよ、甘い物大好きです。」
  「ってことで‥‥はい、あげる。」

  手に持っていたイチゴミルク。
  それを差し出すと、千鶴ちゃんはまた目をまん丸くした。

  え。
  と小さく声を上げて、僕を見る。

  「まだ、たっぷり残ってるよ。」

  ほら。
  と彼女の手に押しつける。
  彼女は再度、イチゴミルクと、それから僕とを見て‥‥それから、
  「あ、ありがとう、ございます。」
  小さくお礼の言葉を口にする。
  「いえいえ、どういたしまして‥‥」
  僕は答えて、それじゃ口直しに何か他の物を買うべく、自販機にお金を入れた。

  がこん。

  「千鶴ちゃんは、それでいい?」

  取り出し口から炭酸飲料を取り出して振り返れば、
  ストローをつけた彼女の口元に、薄いピンク色の液体が吸い込まれていくのが見えた。

  それから、そっと、口を離すと、笑った。

  「間接キス。」

  それがあんまり嬉しそうで。


  ――やられた。


  僕はくしゃと表情を歪める。
  苦笑みたいなそれで。

  間接キスだけで心底嬉しそうな顔をする彼女は、本当に狡い。

  そんな可愛い事を言ってのけちゃう君は、狡い。

  ああ、でも‥‥

  「千鶴ちゃん千鶴ちゃん。」
  「なんですか?」
  「それなんかで満足しなくても‥‥」
  ほら、こっち。
  と僕は自分の口元を指さす。

  「こっち。空いてるよ?」

  にこにこと笑いながら言えば、千鶴ちゃんは真っ赤になって顔を逸らしてしまった。



 間接