夏と言えば…


  藤堂:夏といえば、普通は祭りだろ!!
  原田:良いじゃねえか。納涼って事で
  藤堂:で、でもさ! だからってわざわざ蝋燭一本だけとか、気合い入りすぎだろ!!
  沖田:あれ? もしかして、平助……怖いの?
  藤堂:ここここ、怖いわけねえだろ! 怪談なんてガキのやることだって言ってるだけで、
  斎藤:時には童心に返る事も必要だ
  藤堂:は、一君まで……
  沖田:楽しみだよね
  :おまえは本当に怪談が好きだな
  沖田:うん。だって楽しいじゃない?
  :怪談は楽しい話じゃないと思うぞ
  沖田:話自体が面白いんじゃなくて、怪談を聞いて怖がってる人を見るのが楽しいんだよ
  一同:(悪趣味)
  土方:……そんじゃ、始めるぞ
  斎藤:お願いします
  土方:京のとある大店に、大層綺麗な一人娘がいたそうだ。年は16くらいか……顔良し、器量よしで、是非嫁に来て欲
     しいとあちこちから声を掛かる娘だったらしい
  沖田:まさかその子を土方さんが手込めにしちゃったって話?
  土方:違う。黙って聞いてろ。……その娘に酷く執着してるある武士がいたそうだ。どうしても嫁に欲しいと何度も言い
     寄ったが、娘には別に惚れた男がいたらしい。だが、男は諦めなかった
  :それで?
  土方:どうすれば自分だけの物になるのか、考えた挙げ句。ある方法を思いついたんだ
  斎藤:まさか、
  土方:そうだ。娘を自分の物にしておくために……そいつは、斬っちまったんだよ
  藤堂:酷ぇ
  土方:ああ。酷えのはその後だ。殺した娘を邸に連れ帰って、箱に入れて庭に埋めたらしい。これで、自分の傍に一生女
     を置いておける……そう思ったんだろうな
  原田:なんて男だ
  土方:それから、一年が経ったある日の事だった。男が眠っていると突然、音が聞こえた
  斎藤:音?
  土方:ああ。きしきしと、誰かが歩く音だった。だが、家には誰もいないはずだ
  藤堂:……え
  土方:廊下に出ても、やっぱり人の姿はねえ。でも、足音は遠くで聞こえ続けていた
  藤堂:……な、なんでっ
  土方:きしきし、きしきし、音がずっと聞こえ続けた
  藤堂:……っ
  土方:次の日も、そのまた次の日も聞こえた。しかも、音が徐々に近付いてくる
  藤堂:……ち、ちか……
  土方:部屋の外に聞こえるようになって、どんどん、どんどん、近付いて、ある日、真後ろから聞こえるようになった
  藤堂:……っ
  土方:男は恐ろしくなって、女を掘り起こした。邸から遠ざけてやろうと思ったんだ。…………でも、
  藤堂:で、でも?
  土方:箱の中身は空っぽだった
  藤堂:!?
  斎藤:……? 何故耳を塞ぐのだ?
  :………ちょっと、ね
  土方:確かに箱に入れたはずだったんだが、そこには誰もいない
  藤堂:……
  土方:もしや、聞こえる足音はあの女のものか。まさか死んだ者が歩き回るなんてあり得ねえ……でも、足音はずっと聞
     こえ続けている。ひたひたと、ずっと、後ろから聞こえてくる
  藤堂:……っ……
  土方:その時、突然、足音が止まった
  藤堂:……ぇ……
  土方:すぐ、真後ろで足音が聞こえなくなって、男は恐る恐る振り返ってみた
  藤堂:っ!!
  土方:だが、そこには誰もいなかった
  藤堂:(ほっ)……なんだよ、土方さん。それ怖い話じゃねえじゃ、
  土方:そうやって胸をなで下ろした、その時――

  
沖田:おまえも生き埋めにしてやるぅううう!!

  
藤堂:ぎゃぁあああああ!!


  原田:み、耳が、死んだ
  斎藤:な、何も聞こえぬ
  :良かった。耳塞いどいて