今思えば二人を離しておくべきだったと土方は思う。
  子供同士仲良くするのが一番だと近藤に言われたとき一抹の不安がよぎったのだ。
  その勘を信じて、離しておけば良かったと土方は今でも思う。

  無垢な心ほど染められやすい。
  共にいれば勿論手本とするのは目の前にある「それ」になる。
  まるで子が親に似るように‥‥兄妹も似るのだ。

  離していくべきだった。
  そうすれば、
  彼女はそんなかわいげのない子供にはならなかっただろうに、と。


  言葉の次に少女が取り戻したのは、
  感情だった――


  「何言ってるんですか?がああなったのは僕だけじゃないですよ。」
  心外な、と沖田は抗議の声を上げる。
  「そうかー?総司まんまだと思うけどなぁ‥‥」
  永倉が首をひょいと捻る。
  そうだ、と土方が頷く。
  「おまえに似てどんどん生意気になりやがる。」
  すぐに人の揚げ足を取るわ、叱りつけてもへらへらと笑っているわ‥‥
  原田達が道場にやってきてからしばらくはまだも従順な子供だった。
  ただ、あの頃はあまり感情表現の上手い子供ではなく、それはそれで心配していたが、ある日を境にどんどん表情を見せ
  るようになった。
  もとい、不貞不貞しくなってしまった。

  土方が溜息まじりに言えば原田は首を捻る。
  「や、そういう土方さんにも似てると思うけどな。」
  「そうそう。似てるよね。」
  沖田も同意を示した。
  どの辺が似てるんだ?と訊ねると、沖田が笑顔で答えた。
  「意地っ張りで、頑固で、変な所。」
  変なのはおまえにだけは言われたくねえだろうよ、と皆が心の中で呟く。

  確かには土方ばりに意地っ張りで、頑固だ。
  おまけに一人で無茶をするところまで似ている。
  これまた厄介な所を似たものだと原田は心の中で呟いたが、口には出さなかった。

  「でもって近藤さんにもちょっと似てるところあるよな?」
  「ああ、そりゃ豪快な所だろ?」
  彼女の豪快さは近藤の性格そのままだ。
  出来れば女の子にはあまり欲しくない要素でもある。
  小さい事など気にしないとばかりに笑い飛ばす――そんな男らしさはいらない。

  「まあ一番似てるのは総司にだけど‥‥両親のもしっかり受け継いでるじゃねえか。」
  永倉が笑いながら言うのを、土方はぎろっと睨み付けた。
  だれが両親だ。
  しかも絶対自分は「母親」にされている。

  でも実は彼女が彼らに似るようになったのは、彼らが原因でもあるのだ。

  原田と永倉がいつも楽しそうにしているから。
  だから自分も混ざりたいと思ったのだ。
  そして、混ざるにはどうすればいいのか。
  考えた結果が、彼らと楽しげに話をしている、例えば沖田、土方、近藤‥‥彼らのようになればいいのだという答えで。
  その結果が今のなのである。

  「‥‥なぁに楽しそうに話してるんですか?」
  がひょいと顔を出した。
  噂をすれば影、である。
  彼らは揃って顔を見合わせ、笑ったり溜息をついたり。

  「今さ、おまえが誰に似てるかって話をしてたんだよ。」
  こいこい、と原田が手招きをする。
  呼ばれるままにがやってくると、その前でひょいと沖田が小さな身体を抱き上げて膝の上に乗せた。
  どんどん大きくなっていく沖田の腕の中、小柄な身体はすっぽりと収まってしまう。
  こうしてみると微笑ましくも兄妹に見える。
  「は僕にそっくりなんだって。」
  「え?私総司ほど性格悪くないつもりなんだけど。」
  にこにこ笑う彼にも笑顔で答える。
  中身は相当かわいげがないが。

  いやいや、そっくりだ。
  他人という事実が信じられないくらいに、そっくり。
  もしかしたら生き別れの兄妹なんじゃないのか?おまえら。

  「ったく、変な所ばかり似やがって‥‥」
  土方が溜息混じりにもっと良いところを似ればいいものを、というので沖田とは揃って首を捻った。
  さながら双子のように、
  「いいところって?」
  声を重ねて訊ねる。
  そんなものあるの?と言いたげな二人はすごく意地の悪い笑みを浮かべていた。

  ああほんとうに、すぐに沖田から離しておくべきだったと土方は改めて思う。

  嫌になるほどに似ている。
  いや、自分たちにも似ているところはあるけれど、誰に似ていると聞かれたら一番は沖田だ。
  まったくかわいげがない。

  それでもまだ、助かったと思うことが一つだけ、ある。

  「でも、私は似ている所があって嬉しいな。」

  沖田の腕の中、は目元を僅かに細めて、心底嬉しそうに笑った。
  誰もが「可愛いな」なんて親ばかよろしく心の中で呟くほど、愛らしい笑みで。

  「なんか、本当の家族になったみたいでしょ?」

  彼女は表情以上に可愛い事を言ってのける。

  助かったと思うことが一つだけ、ある。

  彼女が本来持っている「可愛さ」というものが損なわれなかった事。

  出来るならば、
  これ以上は歪まないで育って欲しいものだ、と土方は心の中でこっそりと溜息を零すのだった。



の子は



と幹部の昔話シリーズ。
かわいげがなくなってくる彼女に頭を抱える一同。
でも、多分可愛げは総司以上にないかと(苦笑)