「総司ってさ、どの体位でやるのが好き?」
  「‥‥多分後ろから、ですね。」
  千鶴は一瞬考えて、困ったような顔で答えた。
  最初は大抵、バックだ。
  後ろから犯して困惑しながらも感じて上り詰めていく彼女を見るのが好きなのだ。

  「なんだアイツ、強姦したいわけ?」

  は顔を顰める。
  それはどうか分からないけれど、と千鶴は首を捻り、

  「抵抗されるのは好きらしい‥‥です。」

  と答えた。
  あの男らしい。
  従順なものよりも、多少反抗する者を服従させるのが好きとは‥‥

  「さすがドS。」
  「‥‥はい。」

  千鶴は溜息と共に頷いた。

  「さんはどうですか?」
  今度は千鶴が訊ねると彼女はうーんと首を捻って、
  「‥‥あの人、多分正常位が好きっていうか‥‥」
  言いかけて、ああちがう、と答えを変えた。
  「私の反応見るのが好きだから向かい合うのが好きなんだと思う。」

  正常位であっても、座位であっても、立位であっても‥‥その他の体位であっても、彼はよくにこういう。

  『顔を見せろ』

  と。
  座位で後ろから犯されているのに無理矢理顔を見せろと言われて首を捻りながらイカされたこともあった。

  彼曰く、

  「私のイク顔が見たい‥‥」

  らしい。

  千鶴は妙に納得したような顔で頷いた。
  確かに、目の前の綺麗な顔が愉悦に歪む様はさぞ見物だろうと思った。
  ただほうっと溜息を吐いてみせる憂い顔だって‥‥十分に色っぽくて‥‥艶っぽい。

  「まあ私の方は別に変な体位を‥‥とかはないけど‥‥そっちはあるでしょー?」
  「‥‥」
  沈痛な面もちで千鶴は頷いた。
  そりゃもう、体位と言われる四十八手全て試されるんじゃないかと思うくらい‥‥だ。
  「あと、道具とか使ったりしない?」
  「‥‥‥‥」
  沈黙。
  それはつまりイエスか。

  「‥‥ごめんなー」

  何故かが謝りたい気分だった。
  決して彼女が悪いワケではないのに。

  いえ、と千鶴は首を振り、でも、と顔を上げた。

  「土方さんはそういうの‥‥使わないんですか?」

  当たり前でしょ。
  とは思わず言いたくなる。
  ラブグッズ‥‥などと言うがあれはただのマニアックな性行為がしたい人間の為の玩具だ。
  男の性器を模したバイブなどが世の中にはあるのだと聞いたとき「正気か」と思ったものである。

  「一体何に使うわけ?」
  あんなもの、とが言うと千鶴はぼっと顔を真っ赤にした。
  僅かに言い辛そうな顔になり‥‥
  「その‥‥前と‥‥後ろに‥‥」
  同時にしたいときに、という言葉には顎が外れるかと思った。

  こんな言い方はしたくないが、男と違って女には前にも後ろにも穴はある。

  だが決して後ろの方の穴はそういうためのものはじゃなくて、あくまで排泄器官だ。
  物を入れる場所ではないし、そんなところで快楽を得る場所でもない。

  そうが力説すれば‥‥

  「‥‥さん‥‥ご存じないんですか?」

  千鶴がきょとんとした顔で呟いた。

  何が?と彼女は悪行を重ねる悪友に対しての怒りに拳を握りしめて振り返る。
  ちょっとその勢いに圧されそうになりながら、おずおずと彼女は口を開いてこういった。

  「あそこにも‥‥気持ちいいところ‥‥あるんですよ?」


  ガラガラドシャーン!!


  の頭の中で雷鳴が轟いた。
  そしてどっかに落ちた。
  落雷とついでに身体もがくりと頽れ、は椅子から滑り落ちて床に手を着く。

  「さん!大丈夫ですか!?」
  「‥‥」
  大丈夫とはお世辞にも言えそうになかった。
  ショックが大きすぎた。

  自分の可愛い、純情な天使のような妹が‥‥大人の階段を上ってしまっている。
  そう、自分の全く知らない‥‥未知のある種マニアックな世界へと足を踏みこんでしまっているのだ。

  なおかつ、排泄器官だと信じて疑わなかったそんなところに、物を入れることが当たり前‥‥別に千鶴は当たり前と言っ
  たわけではないのだが‥‥だったなんて‥‥

  「‥‥お尻は嫌だ。」

  それが本音だ。
  は真っ青になりながら、別に今から入れられるわけでもないのにお尻を押さえてよろよろと立ち上がり椅子に座り直す。

  もし土方が後ろにも興味を持ち始めたらどうしよう。
  絶対に嫌だ、それだけは頼むからやめてくれと泣いてしまいそうである。
  ああ、本当に嫌だ。

  「‥‥いやでしょ?」
  それ、とは力無く言えば千鶴は困惑した後に首を軽く振った。
  否、と。
  「恥ずかしいですけど‥‥嫌じゃないです‥‥」
  「なんですと!?」
  がんっとは頭を殴られた気分で絶叫した。
  尻に突っ込まれるのが嫌ではないと!?
  可愛い妹はどうしてしまったというのだろう!
  絶対沖田に毒されたんだ、そうに違いないっ!!

  「わ、私の話より!さんこそどうなんですかっ!!」

  千鶴はもうこっちの話は終わりとばかりに机をバシンと叩いて身を乗り出した。

  「土方先生とは‥‥その、どんな感じなんですか?」
  「どう‥‥って言われても‥‥」
  は首を捻る。
  先ほど言ったように順調だ。
  二週間に一度、起きあがれなくなるくらい激しくされるが、順調だ。
  先ほど言ったようにスイッチの切換が分からないくらいが問題なだけで。

  「土方先生って‥‥結構、ノーマルなんですね。」
  「それ、どういう意味?」

  あの男はアブノーマルに見えるというのだろうか?
  そう訊ねると彼女はぶるぶると首を振り、

  「あの、私たちよりも大人なので‥‥色々ご存じかなぁと‥‥」

  そう告げる。

  まあ確かに、大人なだけあって色々と経験はしている‥‥とは思う。
  だからかもしれないが、

  「あの人、人の弱いところ見つけるの上手いんだよ。」

  二週間に一度、濃厚なセックスを求めてくる彼女の最愛の人は、確実にを追いつめる感じる場所というのを探すのが得意
  だった。
  ちょっと反応しただけなのに目聡く、そこが感じる場所だと分かれば執拗に、責めてくる。
  だから気がつくと一人が気持ちよくなって、何もかも分からないくらいまで追いつめられて何度となくイカされるのだ。

  「昔は相当遊んでいたと思う。」

  星の数ほど女を抱いてるから慣れているんだよと言うと、千鶴はそれは言い過ぎじゃとばかりに顔を顰めた。
  確かにあの顔じゃ昔からさぞ女性には人気があっただろうが‥‥場数を踏んできたからセックスが上手か‥‥と聞かれれば
  そうではないと思う。
  やはり、器用なのだ。

  「そういうのが器用って言われてもなぁ‥‥」

  は顔を顰める。
  器用なのは別の所で発揮して欲しいものだ。

  「でもほら‥‥やっぱり上手な方がいいんじゃないですか?」
  「え、もしかして千鶴ちゃん下手な人としたことあるの!?」
  フォローのつもりで言った言葉には目を剥く。
  沖田が初めてで、最後だろうと思っていたのに意外だ。
  訊ねると彼女は違う違うと首が千切れてしまいそうなくらいにぶんぶんと振った。

  「わ、私は沖田さんだけです!」

  素敵な惚気だ。

  「うん、分かってる。」
  分かってて言ってみた、とが言うと千鶴はもうっと真っ赤な顔でむくれてしまう。

  ふいに、
  ヴヴヴ‥‥
  という振動音が響く。

  「あ‥‥」

  と声を上げたのは千鶴で、ポケットから携帯を取り出すと「すいません」と先に断りを入れて携帯を開いた。

  メールだったらしい。
  千鶴が画面を見た瞬間に、その瞳がそっと優しく細められるのを見た。

  「総司?」

  相手は彼だろう。
  訊ねると彼女は少し困ったような顔でこくんと頷いた。

  「どこにいるの?って聞かれました。」
  「さんと浮気してるって返してあげるといいよ。」
  「ちょっと‥‥電話してきますね。」

  くすくすと笑いながら千鶴は席を立った。
  行ってらっしゃいとその背中を見送ると、彼女のポケットでも、
  ヴ‥‥ヴ‥‥と微かな振動音がした。

  「‥‥まさか私の所にも確認のメールか?」

  沖田だろうかとかちゃりと携帯を開いて、

  「はは‥‥」

  おかしくて笑った。

  『どこにいる?』

  という短い文章と、送り主の名前に‥‥おかしくて、仕方がなかった。

  「あの二人、本当に良く似てるなぁ‥‥」

  メールの送り主は勿論、
  彼女の愛する人――


  




  男子禁止。
  もっとエグイ話をさせようと思った
  けど、千鶴ちゃん相手だとここまで。