「めっずらし‥‥」

  あまりに珍しい光景を見たもので、彼らは揃って同じ言葉を口にした。

  「ほんとに寝てるの?」
  「狸寝入りとかじゃねえのか?」
  「ちょっとほっぺた摘んでみろ、平助。」
  「やだよ!」

  三者三様、言いたい放題言うもので、は半眼で彼らを見上げた。
  「ちょっと三人ともうるさい。」
  起きたらどうするのさ。
  と咎められて、三人は慌てて口を噤んだ。
  いやはや本当に彼の人は眠っているらしい。

  「いや、でもまさか総司がこんな所で居眠りするとは思わなかったなぁ。」

  人の気に聡い彼が、人目に付くところで。
  しかも、人が近寄っても起きない、なんて。
  よほど疲れているのだろうか。

  「いやでもそれにしたって‥‥」
  なあ。
  と永倉が物言いたげに視線を二人にやる。
  「‥‥うん、まあ。」
  なんというか、と原田は頬をかりかりと掻き、
  「総司ずるくねぇ?」
  藤堂は不満を漏らした。

  陽当たりの一番いい一等地に、ごろんと横になる大きな身体。
  しかも、その頭はどういうわけか、の膝を占領しているのだった。
  つまりは、
  膝枕だ。

  「、総司に懐かれてるよなぁ。」
  「‥‥なんだ私は猛獣使いか?」
  となれば沖田が猛獣と言うわけか。
  いや、それはあながち間違いではないかも知れない。
  凶暴な上に、人にあまり懐かない。

  「さっきまでちょっと荒れてたみたいだから‥‥ちょっと話聞いてみようと思ったんだけど。」
  話したら気が済んだのか、言うだけ言ったら今度は眠たいと言って、膝を占領されてしまったのだ。
  この状態でざっと数刻‥‥
  とて暇では無いというのに。

  「災難だったな。」
  と永倉が言うので、
  「ほんとに。」
  とは答える。
  しかしそういう割には、彼の髪を梳く手はひどく優しい。
  眼差しもどこか、慈愛に満ちていて‥‥
  そう、あれだ。
  二人の関係は猛獣と猛獣使いと言うよりも、

  「親子。」

  原田の言葉に、は一瞬きょとんとして、それから「こんな手の掛かる子供はいらない」と笑った。

  大きな子供はまだしばらく、目覚める様子はなかった。






愚痴をお互いに言い合う仲。
親子に近しい存在かもしれない(苦笑)