「ってことは、最後は俺か。」
  やれやれと言った面もちで立ち上がる彼に、
  「待った。」
  は制止を掛ける。

  「左之さんのは‥‥いい」

  「なんだそりゃ。」
  どういう意味だ、と彼は顔を顰めてみせる。
  他二人のは着ておいて自分はいいとはどういう事だ。
  「俺の着物が汚いってのか?」
  そりゃ、他の二人ほどきちんと洗濯などはしていないが‥‥触るのを嫌がられるほど汚いわけではない‥‥はずだ。

  不愉快そうに反論する彼に、はそうじゃない、と言った。

  そうじゃなくて‥‥

  「左之さん‥‥自分の格好をよく見てください。」
  「ああ?」

  言われるままに彼は自分の格好を見る。
  別にいつもの通りの装いだ。
  変な所はないはずである。

  でも、

  「それを‥‥私が着たところを想像してください。」
  「これを、が?」

  原田はじっと自分の服装と、彼女とを見比べる。
  が、
  自分の着物を、
  着る。


  ああ。
  と沖田が声を上げた。

  「それはだいぶいやらしくなっちゃうね。」

  言いたいことが分かったらしい沖田の一言に、原田は一瞬‥‥目を点にした。

  そして、もう一度、自分の着物を‥‥見る。
  赤と白とを基調にした着物。
  だが、彼が上に羽織っているのは‥‥
  腹までもない、短い‥‥羽織で。
  おまけに、胸の部分を留めるものもない。

  つまり‥‥それをが着ると言うことは、

  「――!」

  原田は漸く気付いた。

  そうだ。
  自分の着ている服は極端に布地が少ない。
  下を彼女が着るならまだしも、上は‥‥まずいだろう。
  そりゃまずい。

  「やだな
  自分が言い出したのに、ここで止めるなんて狡いんじゃない?」

  にんまりと、沖田は悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。

  まずい‥‥とは思うが、
  原田も、少しだけ、
  少しだけ見てみたいと思ってしまうあたり‥‥悲しい男の性というやつだろうか?



  「‥‥‥」
  珍しく、は恥ずかしそうな顔をしている。
  いくら男物で大きい、とはいえ、胸の膨らみが着物を押し上げ、下から見ればばっちり中が見えてしまう状況だ。
  おまけに腕周りも男の服が大きいのが仇となり、胸の横部分が見えるのだから色っぽいと言うよりはただただ、いやらしい。
  白い布地に包まれるこれまた白い肌は、同時に赤で強調され、やけに、映えた。

  ごくりと、男たちは喉を鳴らした。
  見てはいけない、見てはいけないと思いつつも、そこへ視線が集中するのは‥‥男故、だ、仕方がない。

  「そんなじろじろ見ないでくださいよっ」

  サラシを巻いているのならまだしも、素肌の上にはこれはたまらない。
  着替えている所を乱入され、サラシを奪われた彼女は仕方なくそのまま出てきたが、男たちのあからさまな視線にさすが
  の彼女も耐えきれなくなったらしい。
  顔を赤くして己の胸を手で隠した。

  「ばっか、これを見ないわけにいくかよ。」
  「ほら、自分が言ったんだから隠さない。」

  ほら、と沖田に腕を取られ、後ろで押さえられる。
  後ろから見るその光景も絶景であり、白く柔らかな谷間に、なんだか目眩がしそうだと沖田は思った。

  「‥‥も、もういいだろ‥‥」
  先ほどの威勢はどこへやら、は今にも泣きそうな顔をしている。
  後ろに手を回した事により、胸が開かれ、寄せていた袷の部分が離れる。

  因みに斎藤は出てきた瞬間、あまりの衝撃に固まってしまい、今、石と化していた。

  変な沈黙が落ちた。

  その、沈黙を破ったのは、

  「おい、いるか?」

  彼女を捜し回っていた鬼の副長である。

  彼はその光景を見るなり、一瞬、目を丸くした。
  あ、すごい、変な顔。
  とはその顔を見て思い、
  そして次の瞬間、
  その顔は憤怒の表情へと変わり、

  「てめぇら、何してやがんだっ!!」

  副長さんの長々としたお説教を、三人は仲良く揃って聞くことになったとか――



衣装交換(参)



衣装交換第ラスト。
左之さんのは最初からオチとして使う予定でした(笑)
ってか、あの人の絶対女の子が着れる洋服じゃない
ですよね。
犯罪ですよ犯罪!