新選組屯所には沢山の猫が出入りしていた。
厄介になっている八木さんの子供が猫を飼っているせいでもあったが、それに加えて沖田が猫を持ち帰ってこっそり飼って
みたり、誰かが餌をやった結果住み着いてしまったり‥‥
その中、猫に一番好かれているのはだった。
元々猫っぽい性格をしているため、同族だとでも思われるのか‥‥彼女が歩くと猫がついてくるという現象まで起きている。
朝目が覚めたらいつの間に潜り込んだのか分からない猫が布団の周りに沢山いたり、または台所から魚が一品くすねられる
と何故かの部屋の前に置いてあったり。
それを見たときには「貢ぎ物か」とも思ったものだ。
しかしどれだけ猫に好かれる‥‥と言っても、まさかあんな事になるとは、誰も思わない。
「が猫に取り憑かれただぁ?」
にゃぁん。
と返事をするのは彼女の声。
ふざけるのも大概にしろと言いたくもなるが、しかし、彼女は本気で返事をしたのだ。
返事‥‥というより名前を呼ばれて鳴いた、という感じだろうか‥‥
ちょこんと目の前に座っているは、確かに彼女のままだ。
顔も姿もなんら変わらない。
勿論耳だって尻尾だって生えていないのだが‥‥
「にゃぁん。」
口から出るそれは猫の鳴き声だし、その動作も猫そのものだ。
そう、
どういうわけか‥‥
は猫に好かれるあまり、猫に取り憑かれてしまったのである。
「‥‥‥」
これは何の冗談だ、と言いたげな顔で土方はを見下ろした。
勿論、猫なので二足歩行はしない。
大人が四つんばいになってうろうろと動く様は‥‥異様である。
男ならば即刻斬り捨ててやりたいくらい、気味が悪い。
やがては立ち止まり、くぁ、と伸びの姿勢を取って欠伸を漏らす。
夢ならば早く覚めて欲しいが、生憎と夢ではない。
「‥‥本当に猫になっちまったのか?」
原田が訊ねた。
彼女のことだからまた悪ふざけでもしているんじゃないかと言えば、斎藤が首を振る。
「いや、先刻から何を訊ねても返事は「にゃあ」の一点張りだ。」
彼女が飽きるまで話しかけてみたのだがぼろが出ることはない。
そればかりかこちらの話がまるっきり通じていないようなのである。
つまり、人間の言葉を理解していないのだ。
「それに、魚しか食べないしね。」
手も使わないのだと沖田が苦笑を漏らした。
「‥‥鳥とか捕まえてきたら‥‥どうしよ‥‥」
藤堂がぼそりと嫌そうな顔で呟く。
‥‥想像すると、かなり‥‥気色悪かった。
「っつぅか‥‥不気味だな、本当に。」
うと顔を顰める土方の前には、猫じゃらしで遊ぶの姿がある。
目を爛々と輝かせ子供のように無邪気に遊ぶ様は‥‥いや、常の彼女からはかけ離れすぎていて‥‥不気味。
「そうですか?」
しかし、同じように目を輝かせている千鶴はそう思わないらしい。
「さん、すごく可愛いじゃないですか。」
うっとりとどこか蕩けたような顔で言われて土方は顔を顰めた。
「‥‥千鶴、おまえ実は趣味が悪いんだな。」
「え?僕も可愛いと思うけどなぁ。」
沖田は反論する。
彼が悪趣味‥‥というのは色んな意味で知っているのでその発言はあてにはならない。
ああそうかよと一蹴すると、彼は考えてみてくださいよと口を開いた。
「猫みたいにじゃれつくですよ?」
可愛いじゃないですか?
「んなの可愛いわけが――」
――可愛いわけが――
男は言いながら、
想像した。
なにかを。
その、瞬間――
「んなもん駄目に決まってんだろ!!」
「にゃっ!?」
何故か顔を真っ赤にした土方はぶんどるようにを捕まえると、まるで逃げるように部屋を出ていってしまったのである。
「‥‥何考えたんだろうね、あの助平親父。」
「案外、あの人も溜まってるからなぁ。」
沖田と原田の言葉が彼に聞こえたかどうかは、謎。
深読み
土方さんが何を想像したか‥‥は謎(笑)
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