ハロウィンなんて聞き慣れない西洋の行事を聞いた近藤さんが、子供みたいに目をきらきらさせて「今日は俺たちもハロウィンをやってみよう」なんて言ったのがきっかけだった。
ちょっとしたおふざけのつもりだったんだと思う。
まあ、ハロウィンと言ってもそれはお化けの格好をしてあちこちを練り歩き、家々でお菓子をもらってくるとかいうものらしく、何が一体楽しいんだかと思ったものだけどそのお菓子を貰う前のやりとりが近藤さんは楽しそうに思えたらしい。
「トリックオアトリート」
それは向こうの言葉で、
『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』
ってはた迷惑なハロウィン独特の文句だと言う。
近藤さんは立派な大人だけど、結構童心を残している。
だからこそ、そういう子供らしい事が好きなんじゃないかな?
とは言ってもお化けの格好なんて皆が出来るほど新選組だって余裕があるわけじゃないから、代表して私が「魔女」という西洋のお化けに変身する事になったわけで、



ハロウィン2011



「ま、待って、左之さん動かないでっ」
「そういうわけにはいかないだろうが」
「うわぁああ、待って! 身体起こしたら駄目だって!」
ぎゃあ、と私は左之さんの下で悲鳴を上げる。
左之さんの下でと言う事は私の上には大きな左之さんが乗っかっているわけで、こんな光景を鬼の副長に見られたら拳骨どころじゃ済まないだろう。
でも違うんだ。決して疚しい事はしていない。
これは事故だ事故。
立ち上がろうとして服の裾を踏みつけてしまって、慌てて左之さんの身体を引っ張って、それが予想外だったらしくて左之さんを巻き込んでしまって、気付くと畳の上に押し倒されるような形で倒れ込む事になっただけなんだ。
じゃあ、早く起きろよと言うお言葉はごもっともなんだけど、それが、左之さんが上に倒れ込んだ事によって服の裾をますます引っ張られてしまって、実は、私の胸が半分見えてしまっているわけでして、これで身体を離されると私はあられもない格好を晒してしまうわけで、
「さ、左之さん、両足、ちょっと上げて、あと両手!」
「無茶言うんじゃねえよ。そんな事したらおまえを押し潰す事になっちまうだろうが」
足さえ退けてくれればどうにか洋服を引き上げる事が出来るんだけど、そうなると左之さんは上半身だけで全てを支えなければいけない。そうなると必然私は左之さんに潰される事になるけれどやむを得まい。
「いいから! 我慢するから! だから、両手両足ばんざーい」
「俺が退けば良いだけのことだろ」
「ぎゃあああ! だめだめだめ、起きちゃだめ!!」
ぐ、と畳に着いた手で身体を起こそうとするので私は慌ててしがみついた。
この時多分私もだけど左之さんも相当動揺していたんだろう。
両手両足を一斉に離すのではなく、少しずらせば良かっただけの事なんだ。そうすれば、私の服を押さえつけるものはなくなったはずなのに。
「っ」
ひしっと背中に手を回してしがみつくと左之さんの身体がぎくっと強ばった。
「お、おい、!」
「は・な・さ・な・いっ!」
「ま、待て、そいつはまずいって」
「私だってやばいんですから!」
焦ったような声に焦った声で返し、私はがっちりとしがみつく。
両手でしがみついたら服を直せないだろうがと言う正論はこの際聞こえない事にする。
とにかく私は今左之さんに離れられるわけにはいかないんだから‥‥

「‥‥?」

しばしの攻防の末、左之さんが小さく溜息を漏らす。
観念したのか身体から力を抜き、ぐったりと私に凭れ掛かってくる。とは言っても全体重をかけるでのはなくあくまで私を潰さないように、だ。
すると不意に、私は太腿に何か固いものが当たるのに気付いた。
なんだろう? と疑問に思ったのは一瞬。
重なり合うお互いの身体の事を考えればすぐに答えが出てきて、答えに到達した瞬間に私は思わずぎょっとした。

「さ、左之さん‥‥あの、なんか、あれが、あれな事に」
思わず強ばる声に返ってくるのは決まり悪そうな声。
「だから、動くなっつったんだよ」
いや、なんでこんな事になってんのかと青ざめたり赤くなったりする私の耳元で、左之さんははふ、と物憂げな溜息一つ。
「さっきから、おまえの胸が当たってて‥‥あんな、強く押しつけられたら、な」
だから、まずいと彼は言ったのか。
いやぁ納得‥‥じゃなく!!
「どどどど、どうしましょう」
ははっと乾いた笑いを漏らせば左之さんも力無く笑う。
「そうだな、どうすっかな」
「こ、このままじっとしてれば収まったりは‥‥」
「しねえな」
「どどど、どうすれば?」
「手っ取り早いのはあれなんだが‥‥って事で、どうする?」
どうすると言った左之さんは少しだけ身体を起こし、私を真っ直ぐに見下ろしてひょいと口の端を跳ね上げる。
「俺が退くか、それともこのまましちまうか」
退けば勿論私は彼にあられもない格好を見せる事になるわけで、このままなら事に及ぶ事になるわけで‥‥
「って、それ、どっちも私が恥ずかしい目に遭うじゃないですかぁ」
「そういやそうだな」
策士なのかと思えばそこまで考えていなかったらしい左之さんは、屈託なく笑ってみせる。
そして笑いながら身体を更に押しつけられ、私は結局後者を選ばされるのかと、観念して力を抜いた。
「トリックオアトリートよりも、質が悪い」
どちらにせよ同じ結果になる上に、私ばっかりが恥ずかしい想いをするなんて‥‥と零せば、左之さんは私の身体の側面を撫でながら色気たっぷりの眼差しを向けて言い放った。

「なんなら、俺に悪戯してくれても構わねえけど?」

勝てる気がしません!




悪戯しようにもされようにも、どちらにしても
エロスな感じになります。

2011.10.30 蛍