16
生娘ではないから痛みはないはずだ。
はそう考えていた。
しかし、指よりも大きなそれが身体に少しずつ押し込まれる度に苦しい程の圧迫感と慣れぬ違和感に自然と息が詰まる。
力めばその分受け入れるのに苦痛を伴うとしても、上手く呼吸が出来ず力を逃せない。
「痛え、か?」
愚問だ、と土方は思いつつも訊ねてしまった。それ以外に言葉を掛けられなかったからだ。
苦しめたくなどないのに苦痛に眉根を寄せ、顔をくしゃりと歪めながらも声一つあげない彼女に掛ける言葉がなかった。
「へい、きっ」
「強がるんじゃねえよ、馬鹿。」
平気と言った声が引き攣っている。
閉ざした瞳を開いて無理矢理笑おうとすればその眦からぼろりと涙が落ちた。
痛くないわけがない。辛くないわけがない。
こんなにも大きなものを彼女は受け入れているのだ。この小さな身体で。
それでも引くことは出来ず、土方は悪いと謝る事しか出来ない。
「痛いだろうが、今は我慢してくれ。」
「は――ひぅっ!」
ず、と些か乱暴に腰を押しつけられじりっと引き裂かれるような痛みが襲う。
同じ痛みならばせめて一瞬で。それは優しさなのか、それとも男の身勝手さなのか。
どちらにせよにとっては身体を引き裂かれるような痛みを与えられ、痛みと衝撃のあまりに華奢な身体がびくり
と大きく跳ねた。
痛みのせいなのか、一筋涙がこぼれ落ちる。
瞬きをすればもう一筋。
また、一筋。
泣きたいわけではないのだけど、涙が止まらない。
どうすればいいのか分からずに視線を上げれば、歪む視界に飛び込んできたのは、
「なん、で、笑ってるんですかぁ‥‥」
ひどく嬉しそうな、彼の笑顔。
人が必死で痛みに耐えているというのに、その様子を見てにこにこしているだなんて酷い。
「人が、泣いてるの見て、楽しいんですかっ」
「そうじゃねえよ。」
じゃあなんで喉を震わせて笑ってるんだと睨み付ければ、そっと優しく頬を撫でられた。
彼は、やっぱり嬉しそうに笑って、言う。
「漸く‥‥おまえとこうすることが出来た。」
なんて、満足そうに笑って言う。
この時になって漸く、は気付いた。
身体の奥に、自分のものではないものが潜り込んでいることに。
「ぁ‥‥」
気付いてしまうと意図せずに腹の奥に力が入る。勿論そこに力を入れれば必然、きゅうと膣も引き締める事となりそ
うすればまざまざと彼の感触を感じた。
生々しいまでに感じる感触に妙に恥ずかしくなって視線をきょろきょろと彷徨わせるけれど、土方はからかったりは
しない。
ただ、優しく笑ったまま、
「やっと、おまえを俺のものに出来たんだな。」
と感慨深げに言う。
込み上げる様々な想いを飲み込み、その代わりに今ある幸せを噛みしめて。
「やっと、掴むことが出来た。」
彼女という存在を。
ずっと欲しくて、焦がれていた彼女という存在を、漸く自分の手の中に掴むことが出来た。
届かないと思ったその手で掴むことが出来た。
自分の物にする事が、出来た。
そんな事の何が嬉しいのだろうか。には分からない。
何故なら自分という存在はちっぽけで、なにより、自分という存在はずっと前から彼のものだったからだ。
だけど、そんな風に言われたら‥‥やっぱり嬉しくて、
「待たせて、ごめんなさい。」
心の奥から込み上げてくる幸福感に、も自然と口元が緩む。
ほほえみかけるだけでは足りなくて手を伸ばして抱きつくと、彼は笑いながら言った。
「本当だ。この俺をこんなに待たせる女はいねえぞ。」
からかう言葉は、優しい。
ついつい、もっと甘えたくなって頬に口付ければ同じように、額に口付けが降ってくる。
そこだけじゃなく濡れた眦にも、鼻の天辺にも。
それから、
「ん」
唇に、優しい口付け。
互いの唇を愛撫し合うようにゆるゆると触れて、離れれば近しいところに美しい紫紺があって、真っ直ぐにこちらを
見ていた。
「改めて、言わせてくれ。」
彼は言った。
熱の籠もった眼差しを向けて、その揺るがない想いを口にした。
「おまえを‥‥愛してる。」
聞き慣れない愛の言葉は、ちょっとだけ恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しくて‥‥
人は、何故肌を重ねるのか。
言葉では、触れるだけでは、伝えきれないからなのだとこの時、漸く気付いた。
言葉もなく動き始めた彼に、最初の数回は痛いとは思った。
だからだろう、彼もが慣れるまでは緩やかな動きを繰り返した。
彼が馴染むまで入口と奥を行き来するだけだ。彼はそれで彼は満足だろうかと心配になったものだが何かを言おうと
すると何も言うなと苦笑で遮られる。
何度か繰り返す内にあれほど大きなものを挿入されているというのに身体は慣れていくようで、異物感も痛みも徐々
に消えていく。
それから、程なくして、
「んっ‥‥ぁっ」
じりっと腰の奥に痺れが走りだし、声が漏れた。
同じ事を繰り返していただけのはずなのに何故だろう。彼が動く度に少しずつ身体が変わっていくのが分かる。
呼吸が速くなる。
身体が熱くなる。
感覚が鋭くなって、
それから、
それから、
「あ、っ‥‥ぁっ」
「好くなってきたみてえだな‥‥」
それは声からも顔からも、それから彼女の中の様子からもうかがい知れる。
先程まで些か緊張していた胎内は、徐々に熱く柔らかくなり、快楽に貪りつこうと彼の陰茎にしがみついてくるのだ。
しがみつく、というよりはそう、食らいつく。それが正しい。
じわじわと蠕動する肉にまるで食われている感覚になる。
うかうかしていると取り込まれそうで、土方は下腹に力を入れると単調な動きに変化をつけた。
「ひゃぁっ!」
抉るように穿てばの口から声が迸った。
それから膣の動きが忙しなくなり、まるで突然の彼の行動に抗議でもするかのように肉が噛みついてくる。
負けじと引き剥がして、今度はぐるりと腰を回せば、が泣きそうな声を上げた。
「あ、や、それっ、ぁっ‥あっ」
「随分と、具合が好さそうだな‥‥こうされるの、好きか?」
好きかどうかを答えられるほどは色事に慣れているわけではない。
勿論嫌ではないが、そうされるとなんだか妙に身体が疼いて、知らず嫌という言葉が漏れてしまうがその言葉を彼に
は聞いて貰えない。
彼女の言う「嫌」が言葉とは反対の意味であると知っているからだ。
「や、ンっ‥‥やだ、揺らしちゃ‥‥」
だめ、と吐息混じりに告げながら美しい顔が愉悦と羞恥に歪む。
それが堪らなく色っぽく、そして堪らなく美しく、土方の背を凶暴な衝動が駆け上がっていった。
一瞬我を忘れて貪り突きそうになりそれを寸でで抑え付けると、膝裏を抱えて胸に押しつけるようにして体重を掛けた。
「ふ、ぁっ――」
「苦しいかもしれねえが、ちょっと我慢してろよ。」
悪いというまるっきり謝意を感じない謝罪が降ってきたが反論する機会は与えて貰えなかった。身体を折り曲げるよ
うな形ですぐに彼が律動を開始したから。
苦しいと思ったのは体勢のせいなのか、より奥に穿たれたせいなのか。だが、その苦しさよりも強く感じるのは火傷
してしまいそうな熱。
ぐちゃぐちゃとかき混ぜるように揺すられ、擦れ合う粘膜同士がさらなる熱を生みだし内部からお互いを溶かしてい
くかのようだ。
「んっ、んっ、ぁっ‥あつ、ぃっ」
「熱いな。火傷しそうだ。」
「あ、なか‥とけてっ‥‥」
「ああ。おまえのなか、ぐずぐず、だ。」
ぐずぐずに形を留めぬほどにとろけた内部はどこまでも潜り込めそうだ。
一度息を吸って、ぐと強く腰を押しつければの半身が揺らめいた。
柔らかな肉とは違う感触が亀頭に触れている。その感触が気持ちよくてすりすりと擦りつければ、抱えた脚がびくり
と驚いたみたいに空を蹴った。
「ぁ、あっ、おく、や、やだぁっ」
「そうか、おまえ‥‥ここが弱えんだな。」
「ちが‥ぁ、や、やだっ、ぁ‥あっ」
「違わねえよ。ほら、吸い付いてくるじゃねえか。」
奥に触れたまま腰を小刻みに揺らせば、とろけた柔肉が吸い付いてくる。
時に甘えたように、時に噛みつくように。
熱く、激しく、優しく、甘く。
まるで彼女のようで、だけど自分が知る彼女のそれとは違う。
「想像してたより、こいつはずっと‥‥」
好いなと土方は譫言のように呟いた。
彼とて男だ。惚れた女がいれば彼女とこうなることを想像せずにはいられない健全な肉体を持つ男。
想像の中で彼女を抱いた事もあるし、彼女の事を考えながら欲を発散させた事もある。
愛しているからこそ大切にしたいと口では言いながら、頭の中では彼女を滅茶苦茶にした事だって何度もあった。
がしかし、想像と現実は違う。
自分の想像力というのがこの程度かと些か落胆と、喜びを覚えるというものだ。
「なあ、この音、聞こえるか?」
不意にそれに気付いた男が、にやりと意地の悪い笑みを浮かべて声を掛けてきた。
この状況で質問に答えられるほどの余裕はにはない。だがそれでも最愛の男の声を拾い上げ、健気にも問いに答
えようとするのか神経が音と呼ばれるものを拾い上げようとする。
聞こえたのは自分たちの荒い吐息と、それから、
ちゅくちゅくという濡れた音。
それは二人の繋がった所から、いや正確にはの身体の中から漏れていた。
彼女の身の内から溢れた蜜と熟れた肉が、彼の剛直でかき混ぜられて音を立てているのだ。
「っ!」
そうと分かればなんと卑猥な音か。
かぁっと耳まで真っ赤になる彼女に土方は薄く笑って告げる。
「身体の中で、口付け合ってるみてえだな。」
そんな恥ずかしい台詞をよくも口に出来た物だ。
からかうつもりなのか、それとも素直な感想なのか分からないけれどにとってはひたすら恥ずかしい想いをさせ
られるばかりで、
「や、そんなことっ‥‥」
消え入りそうな声で言って顔を背けてしまう。
そうすれば飴色から覗く耳が真っ赤に染まっているのが見えた。それがなんだか愛しくて、綺麗な形の耳殻に噛みつ
いてみると「ひゃあ」と彼女の口から声が上がった。
きゅう、と同時に彼女の膣が締まる。そして、ざわざわとざわめくように膣肉が忙しなく動いた。
「や、みみっ、やだっ」
「なんだ、おまえ、耳が弱えのか。」
「わかん、なっ、‥‥ひゃぁっ、ン!」
耳が弱いのかどうかは分からない。
ただ耳殻を噛まれるのも耳朶を吸われるのも、どうにも腹の奥がきゅうっと締めつけられるような気がして堪らない。
「や、ゃっ、耳、だめ‥」
「素直に、好いって言えよ。」
どこか甘えたような響きの囁きを耳に直接注ぎ込まれ、ついでに舌先もねじ込まれてじゅと濡れた音と湿った感触が
更にを煽る。
これ以上乱れてはいけないと思うのに理性がとろとろにとろけて、自制が効かない。
駄目だと心にもない言葉を吐くのはせめてもの抵抗。でも、その抵抗さえも愛しいと思う男にとっては逆効果でしか
ない。
「もう少し、時間を掛けてやるつもりだったんだが、」
小さく息を飲む音が聞こえ、ぐいと腰を大きく引かれる。
そうしてじゅぶと泡立つ程に強く奥までを貫かれ、は苦しげな声を上げた。
「は、ぁっ」
もう入らないと思っていた奥まで潜り込ませると彼女の背が綺麗に撓る。
そのまま奥まった場所をずぐずぐと何度も勢いをつけて突けば、が悲鳴じみた声を上げてしがみついてきた。
「あ、だめっ、やだ、や‥ぁ、なんかっ」
それが何なのかは分からないけれど、本能的に「くる」とは感じた。
身体の中から沸々とわき上がった何かが溢れ出し、外に飛び出そうとしていると。
吐き出してやれば身体は楽になるのだろう、が、は方法が分からない。
分からないがそれに飲み込まれてしまいそうで、飲み込まれた先がどうなるのか分からなければ不安で、男にしがみ
ついた。
「くる、ぁ、きちゃう、‥きちゃうよぉっ」
「もう、いきそうか?」
余裕のない問い掛けには分からないと頭を振る。
それが何か分かるほどには経験がない。
しかし、土方には分かった。
彼女は果てそうなのだと。
そして、自分も。
「ああ、俺も、来そうだっ」
苦悶に似た表情を浮かべ、彼は舌裏に溜まった唾液をごくりと飲み下すと「つかまってろよ」と言って乱暴な動きへ
と変えた。
ぐちゃぐちゃと泡立つほどにかき混ぜられたかと思うと、強く突き破るみたいに突き上げられ、また腰を引いて浅い
ところをぐずぐずと嬲られ、は滅茶苦茶な動きに翻弄されるしかない。
「っひじかたさ、んっ、ひじかた、さっ、」
助けを求めるのか、それとも強請るのか、何度も泣きながら彼女は自分を呼んでいる。
それに薄らと優越感を覚えながら、それでもこの状況では違うだろうと男は唇を開いて告げた。
「歳三、だ。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔をのぞき込み、彼は言う。
「名前で呼べ。」
いや、と彼は言い直した。
「名前で、呼んでくれ。」
他の誰でもない、彼女に名前で呼んで欲しかった。
歳三と、他の誰もが呼ばない呼び方で呼んでもらいたくて、
その特別な呼び方を自分が赦されたのは、
二人が、
他人ではないから。
夫婦だから、
家族、だから、
それが嬉しくて、泣きたいくらいに嬉しくて、
「としぞう、さん」
は初めて、彼を名で呼んだ。
歳三と。
ただ一人の男として、名を呼んだ。
世界でただ一人、愛すべき家族。
愛すべき夫となった彼を、は愛しくて何度も呼んだ。
「歳三さん。」
呼べば彼は嬉しそうに笑って、髪を撫でて、口付けをくれて、
「としぞ、さっ‥‥」
自分の本性を曝け出してぶつけてくれて、
「とし、っ‥‥」
そうして、愛してくれる。
誰よりも深く激しく。
優しく、甘く。
「も、だめ、とし、ぞっ‥さ、‥私、わたし、」
もっとこうして抱いていて欲しい。
でも、このままではもうおかしくなってしまいそうで切なげに訴えれば彼は抱きしめて耳元で答えてくれた。
「ああ、一緒に。」
いこう――
言葉が吐息となって弾ける。
瞬間ぐんっと身体の奥を突き破るように突き上げられ、ぎりぎりの所で堪えていた何かがふつりと破裂するのを
は感じた。
あ、と声を上げたかどうかは分からない。
ただ次の瞬間真っ白に目の前が塗り潰され、一気に落下する喪失感が襲って、
「っく――」
悩ましげな声を彼は漏らして動きを止めたかと思うと身体の奥で熱が弾けた。
注ぎ込まれる精はとても熱く、身体の中が溶けてしまうのではないだろうかとぼんやりと思いながらその全てを受け
止めた。
「‥‥ん、」
やがて徐々に勢いを無くし、埋まったそれが常の状態へと戻っていく。
目を閉じ余韻に浸っていると唇に濡れた感触が触れた。
瞳を薄らと開ければ彼の美しい顔が目の前にあった。
啄むように一度、二度、と触れ、軽い音を立てて離れると濡れた紫紺に覗き込まれる。優しい瞳だ。
「大丈夫だったか?」
「あ、はい‥‥」
我ながら気の利いた言葉を返せない自分にうんざりする。
だが良かったと言うのは恥ずかしいし、それ以外に言葉もない。ならば素直に問いに答えるしか出来ず、答えてから
視線を伏せれば額にちゅと唇が押し当てられ、頬を大きな手で包まれた。
顔を上げろ、そう言われた気がしておずおずと視線を上げれば困ったように彼が笑う。
「悪い、痛かっただろ。」
「‥‥平気、です。」
気遣われるのがくすぐったくて、嬉しい。
今までだって彼は優しかったけれどそれよりももっと優しく感じるのは‥‥二人が夫婦になったからなのだろう。
そんな事実が愛おしくて、大丈夫と笑ってやれば更に困ったように眉根が下がった。
「悪かった。‥‥慣れてねえみてえだし、もっと加減してやるつもりだったんだが‥‥」
言葉が徐々に消えていく。
自分でも堪えられずに無理をさせた事を申し訳ないと思う以上に格好が付かないと思っているのだろう。
己の不甲斐なさに僅かに視線を伏せて不機嫌そうに眉根を寄せる彼がなんだか酷く‥‥可愛くて、
「なんだよ」
思わずと言う風にふっと笑うと紫紺が丸くなった後に、睨み付けるように細められた。
「可愛い」だなんて褒めたらきっと機嫌を損ねてしまうことだろう。
その代わりには笑みを浮かべたままで、頬を包んでくれる大きなそれへと重ねて甘えるように頬をすり寄せなが
ら告げた。
「すき。」
「……」
「歳三さんが、好きです。」
「おまえ、な、」
「愛してます。」
困惑気味の表情を浮かべる彼の言葉を遮って、今の気持ちを素直に言葉にする。
この世の何よりも彼が愛おしい。
好きで好きで、堪らない。
言葉を幾ら紡いでも、この気持ちを彼に伝えきる事が出来ない。
もどかしい想いで、どうにも出来なくて、最終的に言葉を止めて唇を彼のそれへと押し当てる。
触れた全てから伝わればいい。彼への狂おしい想い。
身体の底から後から後から溢れてくる愛おしいという気持ちを唇で伝えれば、押し当てられていた唇が僅かに緩んで、
「んっ」
隙間から差し込まれた舌に再び舌先を捕らえられ、深く貪られる。
最初のそれよりも穏やかに擽るように触れてくる舌先や緩くさするように食まれる唇は、同じように彼の想いを表し
ているような気がした。
愛しいからこそ自分に優しく触れたいという、彼想い。
もっと、激しく触れてくれてもいいのに。
剥き出しの彼の本性をぶつけて、荒々しく奪ってくれても構わないのに。
そう思えば舌先が勝手に彼のそれへと絡みつく。
挑発するように彼の歯茎の裏を舐り上げれば、ふるりと空気が揺れる音が聞こえて‥‥口付けが乱暴になった。
悪戯をけしかけた舌は彼に完全に捕らえられ、深い口付けはの呼吸が止まりそうになるまで続けられ、
「おまえのせいだからな」
は、と唇が離れた瞬間呻くような言葉で告げられ、はぼんやりとしたままどういう意味だろうかと考えた。
次の瞬間、内部に潜り込んでいた彼の雄がむくりと頭を擡げてくるのに気付き、
「え、あっ」
ぎょっと目を見開いて彼を見遣れば、その瞳には彼女が望んだ男の本能を剥き出しにしたそれが色濃く出ている。
すっかり欲情しきった紫紺は酷く色っぽく自分を見ていて、濡れた口元をついと歪めて笑みを象るのが‥‥堪らなく
美しい。
思わず、見惚れてしまうほどに。
「初めての夜だから手加減してやろうと思ったのに、」
彼は言う。
言いながらゆるりと腰を押しつけられ、はびりっと背骨に沿って駆け上がっていく痺れに仰け反った。
一度達して収まったはずの熱と疼きが、一瞬にして蘇り身体を支配していく。
いや、先程よりも強い快楽だ。
恐らくの身体が一度達した事により敏感になっているのだろう。
「ぁ、あ、だめっ、まだっ」
動かないでくれと制止を掛けるように背中に爪を立てる。それは制止というよりもしがみついて強請られているよう
で男の興奮は増すばかりだ。
「収まりがつかなくなっちまっただろ」
は、と掠れた声で笑い土方は込み上げる欲望のままに腰を突き上げる。
びくんと大きく震えた彼女の膣内は負けじとかぶりついてきて、自分を求めているのだと如実に教えてくれた。
「おまえの中も、その気みてえだし‥‥もう一度くらい、良いよな。」
「だめっ、ぁ、だめ‥んんっ!」
ず、ず、と揺すり上げられるたびに身体の奥から甘い感覚が溢れて止まらない。これも愛おしいという気持ちの一種
なのだろうか。分からないがただただ苦しくて解放されたくて、否、もっと与えて欲しくて‥‥
「ん、は‥‥も、もっと、」
譫言のようにもっとと強請りながら脚を彼の腰に絡みつかせれば、男の喉仏が色っぽく上下する。
女の乱れように息を飲み、更に溢れた欲に逸物が膨らむのを止められない。
「ああ、良いぜ、呉れて遣る。」
いくらでもなと内心で告げ、乱暴に揺さぶった。
悲鳴のような声が漏れたが‥‥もう止めてやらない。
彼女はそうされるのを望んでいるし、これが、彼の愛の形だ。
心底惚れた女だからこそ、全力で、本気で、愛する。
乱暴なのもまた、彼の狂おしい想いの一つだ。
そして彼女の愛もまた、穏やかなだけではなくもっと貪欲で‥‥凶暴なものなのだ。
「たっぷりとお預けを食らった分、取り返させてもらおうか。」
どくりと熱を吐き出した夫は止める事なく、三度目を求めながら言った。
妻は泣きそうな顔をしたけれど、背に回した指先に力を込めてしがみつくとこれまた健気に返すのだ。
「あなたの愛なら、いくらでも受け止めます。」

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