「薄紅梅は‥‥ちょっと地味すぎるな。」
言いながらぺいと土方さんはそれを放り出す。
用済みと言われたそれはへなへなと畳の上に落ち、なんだか少し寂しげに見えた。
「ん?青緑か‥‥悪くはねえが、柄が気にいらねえな。」
綺麗な色だと思うのにと内心で呟きながら小さな柄は確かに彼の好みではなさそうだ。
「瑠璃に、橙‥‥」
深緑、烏羽。

色の洪水。

いろんな色が私の前に広がっていく。
でも、土方さんが気に入ったものはまだ、ない。

「ねー、もういいですよー」
先に根をあげたのは私の方だった。
もういい、なんでもいいと疲れたように言うと、土方さんは眉間に皺を刻んでいいわけがあるかと反論した。
でも、と私は彼に投げ捨てられた新しい着物を持ち上げて、
「たかだか新年を迎えるだけなのに‥‥」
なにも着物を新調しなくても、と呟いた。

薄紅梅や青緑。
瑠璃に橙。
室内は色とりどりの着物で埋め尽くされている。

『着物を作ってやる。』

と彼に言われたときは驚いた。
人里離れた所でひっそりと暮らしている私たちはあまり豪華な暮らしは出来ない。
着物を買う‥‥なんてことは一年に一度あるかないか。
だって買わなくてもまだ着れる着物はたくさんある。
時々大鳥さんが隠れて持ってきてくれたりするんだもん。
まだ袖を通してない着物はいくつもある。
それなのに突然着物を作るだなんて‥‥

「新しい年になるんだ‥‥古い着物で迎えるわけにはいかねえだろうが。」
手にしていた鮮やかな藤黄を放り投げながら彼は言った。
古い着物で迎えるわけにはいかないって言うなら‥‥
「この間大鳥さんからもらった濃紺の着物があるじゃないですか。」
あれじゃ駄目なんですか?と聞くと、土方さんは何故か一層不機嫌になった。
「駄目だ。」
低くぼそっとそれだけ言うと、もう一度辺りを見回して、考え込む。

何が気に入らないのか分からないけれど一度こうだと決めたら人の話を聞かないんだから‥‥

私ははぁ、とため息を吐き、手元にあった着物をたたみ始める。
彼がぽいぽいと投げた着物はまだ私たちのものではなく立派な商品なのだから。
因みに着物を持ってきた反物屋の主人はあれこれと悩み始めた土方さんに呆れたのか、気が済むまで悩んでくださいと言って着物だけを置いて店に戻ってしまったんだよね。
‥‥まあ正直私も好きにしてくれ状態。
今の間に夕飯の支度でもしようかな‥‥

「よし、やっぱりこの色だな。」

まるで頃合いを見計らったかのように土方さんは言って、一つの着物を引き寄せた。

それは‥‥

「紫紺?」

鮮やかな紫紺の着物。
少しばかり青が勝ってるかな?
でも綺麗な色に染め上げられた着物だ。
柄は控えめで、裾を黒い花が飾っている。

「綺麗ですね。」

素直に感想を言うとそうだろうと土方さんは口元を引き上げて笑い、

「これにする。
袖を通してみろ。」
と私に着物を押しつけてくる。
「え?本気で着物買うんですか?」
押しつけられた着物はなんだか今まで触れたどれよりも柔らかく、明らかに生地がいいのだと私に知らしめた。
それにこんなに美しく染め上げられた着物だ‥‥多分、高い。

「い、いいですよ。」
「なんだ?俺が着物の一着も買えねえような貧乏人だとでも思ってんのか?」
「そうじゃないけど‥‥」
「なら、なんでそんなに気にするんだよ。」
「‥‥それは私の科白‥‥」
突っ返そうとしても突っぱねられ、私はため息をつきつつとりあえず彼の言うとおり袖だけでも通す。
着物上から通そうとすると、
「馬鹿、その上に羽織ってどうするよ。」
と文句を言われてしまった。
「はいはい、分かりました。」
注文の多い旦那様だ‥‥
もう一度深いため息を吐き、私は着ていた着物を脱ぐと襦袢の上に紫紺の着物を羽織った。

前をしかと合わせ腰紐で締める。
そうして手早く帯を締め、衿を正した。

「どうですか?」
生憎とここには鏡がない。
私は自分の姿を見ることが出来ず、感想を訊ねると土方さんは目をそうっと眇めて、満足げに頷いた。

「似合ってる。」

ひどく嬉しそうに言われて、照れてしまう。
私は気恥ずかしさに視線を落としつつ礼を述べた。

「やっぱり俺の見立てた通りだったな。」
彼はそう言いながらゆっくりと立ち上がると私の傍に近づいてきた。
俯いた顔を顎に手を添えて挙げさせる。
美しい瞳が私をじっと見つめていた。
「そ、そんなにまじまじ見ないでくださいよ。」
恥ずかしいじゃないですかと唇を尖らせるとその唇を親指でなぞられた。
思わずぞくりと背筋が震えたのは、その触れ方が‥‥少しいやらしかったからだ。
「この色に似合う紅が必要だな。」
「‥‥」
「鮮やかな紅が似合いそうだ。」
「ひじ‥‥」
もうやめてと言いかけた唇を、彼の唇で塞がれる。
触れるだけの口づけ。
それだけなのに一瞬にして息が止まって、血液が逆流してくるのが分かった。
「んっ!」
びくっと身体を震わせ、思わず声を漏らすと背中を大きな手で撫でられた。
そうしながら合わせていただけの唇が強引に開かれる。
「ぁっ、んんっ」
ぬるりと熱いものが滑り込んできて私は目を瞑った。

彼との口づけは何度しても‥‥慣れない。

いつも気がつくと頭の中がぼんやりして、呼吸もままならない。
苦しくて突き放したいと願いながらもっと深くを奪って欲しいと思う。
もっと、
もっと、
奪って欲しくて、
奪いたくて。

「ん‥‥は、ぁ‥‥」
濡れた音が聞こえて唇が離れる。
ゆっくりと瞳を開くとぼやけた視界に色っぽい男の、獰猛な瞳が映り込む。
「‥‥ひじ‥‥か‥‥」
掠れた声が唇から零れた。
けほと小さく噎せ返れば土方さんは愛おしいものでも見るような目で見つめて、もう一度唇に唇で触れた。
「んな目で見るな。」
止められないだろと甘い声が脳髄を蕩かせる。
「止める気‥‥ないくせっ、ぁっ‥‥」
今し方着たばかりの着物を彼は慣れた手つきで脱がせていく。
帯を解かれ、腰帯まで抜かれるとするりと紫紺の着物が滑り落ちる。
「だめ‥‥まだこれ‥‥」
お金も払ってないのに汚すわけにもいかない。
駄目だと押しのけるけど土方さんは聞く耳を持たない。
首筋を舐めながら襦袢の腰帯にも手を伸ばしてきた。
「駄目だって‥‥うわっ!?」
突然ぐらりと身体の均衡が崩れ、浮遊感に私は土方さんにしがみついた。
土方さんはそのまま私を柔らかな着物中に沈めると、反論を許さないとばかりに口づけで塞ぐ。
「んっ、んっ。」
送り込まれる唾液を嚥下しながら、私は無駄と分かっていながら彼を押しのけようとした。
そうすればそうするほど彼の口づけは深くなり、手つきも大胆になっていく。
襦袢の前を乱され、大きな手が胸を掴む。
感触を楽しむように何度か掌全部で揉んだ後、指先が頂をつまんだ。
「‥‥ぁっ!」
その瞬間、びりっと背筋を痺れが走り私は彼の口づけをふりほどいて喘ぐ。
「や、そこ、やあっ」
きゅ、きゅと頂を何度も何度もしつこく摘んでくる。
いやだと言うのに土方さんは離してくれない。
そればかりか濡れた唇を己の舌で舐めながら、意地悪く言った。
「いやじゃねえだろ?善い顔しやがって‥‥」
「ちが‥‥うぁ」
違うと言いかけた言葉は先ほどよりも強く摘まれて大きな声が漏れてしまった。
喉を晒して声を上げれば「いいんだろう」と掠れた声で囁かれた。

そう、いい。

でも、いいなんて言わない。

言ったら‥‥負けた気がするから。

「‥‥折角、着たのに‥‥」
代わりに睨み付けて文句を言うと土方さんは鎖骨に歯を緩く立てながら、くつくつと笑った。
「おまえ、分かってねえなあ。」
なにが?
私は眉根を寄せた。
すると彼は胸まで唇を滑らせ谷間に顔を埋めながら上目遣いに私を見て、

「男が着物を贈るのは、そいつを脱がせたいって願望もあるんだよ。」

なんて、無茶苦茶なことを艶めいた笑みを浮かべて言った。
呆れて‥‥言葉が出ない代わりに甲高い声が漏れた。



ぐちゃぐちゃとかき回すような音が聞こえる。
かと思えば、じゅると何かを啜る音。

それが聞こえる度に私の身体を激しい快楽が駆け抜け、腰が浮き、身体が強張った。
全身から汗が噴き出し、ぐっしょりと襦袢を濡らしていた。
その下に敷かれた着物の事は‥‥考えたくない。
それよりも、早く。

「ひ、じかた‥‥さぁん‥‥」

自分でも甘ったるい声が漏れたと思った。
呼べば彼はなんだと私の脚の間で返事をした。
返事が欲しかったんじゃない。
そうじゃなくて。

「‥‥ひゃっ」

恥ずかしくて言えずに唇を噛みしめるとまた、ぐじゅりと穿たれた指で蜜を掻き出された。
その時にいい所にあたって‥‥腰がびくんと震える。
ひくひくと自身の秘所が戦慄くのが分かった。
でも、足りない。

「んっ、あ、も、おねが‥‥」

はぁと熱い吐息を漏らす。
お願いと涙混じりに言っても彼はしてはくれない。
ただ意地悪く私を見やったまま、べろりと蜜で濡れた花芽を舐めた。

びり、とひときわ強い快楽が身体を駆け抜け、もどかしさが一気に募った。
ひ、と引きつったような声は恐れているようにも聞こえるのに腰が浮いて、まるで強請るみたいに彼の顔にそこを押しつけた。
気をよくしたらしい土方さんは口の端に笑みを湛えたまま、ざらついた舌で何度も何度もそこを舐めてくる。
同時に私が悦ぶ所を中から責めてきて、身体の奥から何かが爆発しそうだった。

快楽が羞恥心を上回るのはすぐだった。

「お願い‥‥」

震える声が唇から勝手に滑り落ちた。

「‥‥い、いれて‥‥ください。」

自分から挿入を強請ったのは‥‥初めてで、
口にしてしまってからひどく恥ずかしい上にはしたない気がしてぼろりと涙がこめかみを伝った。

「も、やだぁ‥‥」

ぼろぼろと涙が後から後から溢れてくる。
土方さんは漸くそこから顔を離し、濡れる眦に口づけを落としてきた。
宥めるようにそっと、何度も、触れて、

「恥ずかしがる事はねえよ。」

最後に身体全部をぎゅっと逞しい腕が抱きしめた。

「おまえに求められて‥‥俺は嬉しい。」
嬉しくて、嬉しくてどうにかなりそうだと彼は言った。
「私、は、恥ずかしくて死にそう。」
ぐずと鼻を啜りながら私は愛しい人の首に齧り付く。
そうかと耳元で声が聞こえ、ふっと笑みがこぼれる。
そうして、
「わっ!?」
ぐいと身体を引き起こされ、体勢を変えさせられた。

「え?え?」

座った形のまま、向かい合うような格好。
胡座を掻いた彼は、遠慮なしに綺麗な着物を下敷きにしている。
ああもう、あれは絶対買い取らないとと私はどこか遠くで考えていると、ごそごそと彼が下で何かをしているのに気づいた。

「‥‥え‥‥っ!?」

思わず視線を下に落としてしまい、私はばっちりと彼の下半身を目の当たりにしてしまう事となる。
その‥‥土方さんの男の部分を、だ。

しかも見せつけるように大きくなったそれを手で軽く扱いて更に大きくさせてみせた。

その光景は‥‥すごくやらしいのに‥‥なんだかすごく色っぽい。

固まっていると何故か彼は勝ち誇ったような顔で私を見て、笑う。

なにさその反応。
っていうか、これの体勢ってもしかして。

「‥‥まさか‥‥」
胡座を掻いた自分の上に私を座らせるような体勢に気づき、まさかと青ざめて声を上げる。
「この格好で、するの?」
不安げに訊ねれば彼はにこりと笑った。
「たまにはいいだろ?」
「た、たまにはって‥‥そんなのいいわけないでしょ!」
その体勢だと必然、私が腰を落としてそれを受け入れることになる。
つまり‥‥私が率先して動かなきゃいけないって事で‥‥

「嫌だ。」

私は首を振った。
そんな私が率先して‥‥なんてはしたない事できるもんかと言うと土方さんはそうか?と首を捻った。

「別に俺ははしたないなんて思わねえぞ‥‥」
むしろ、
と彼は艶然と笑う。

「興奮する。」

そりゃあんただけだ、この助平親父。

内心で突っ込み、私は頑として首を縦に振らない。
その間も下にあるそれから何とも言えない威圧感を感じる。
下を見たら終わり‥‥
私は土方さんを睨み付けたまま無理と主張を通した。

けど、

強硬手段とばかりにつんと下からそれが突いてきて、

「ひぁっ!?」

甘ったるい声と共にがくんと腰が落ちた。
弾みでにゅると先端が飲み込まれる。
甘い痺れが受け入れた所から広がっていき、更に力が入らなくなる。
そうすると早かった。

「あ、うぁあ、あっあ‥‥」

ずぶずぶと下から楔が打ち込まれる気分だった。

彼のものが内壁をえぐるようにして入ってくるのが鮮明に分かる。
熱くて固いそれに、思わず腰が蠢いてしまう。

「あ、だめぇっ‥‥」

駄目って言ってるのに、身体は勝手に‥‥彼をあっという間に飲み込んでしまった。

体勢のせいか、いつもよりも奥まで彼を感じた。
熱いそれが子宮の入り口を押し上げるような感じで、少し、苦しい。
完全に彼の上に座り込む形になって、全部を受け入れると、私は苦しさで小さく身体を震わせた。
呼吸も浅く、小刻みになる。
「‥‥痛いか?」
土方さんが優しく聞いてきた。
痛いっていうより苦しい。
文句の一つでも言ってやろうと思ったけど、優しく頬を撫でられてそれはかき消えてしまう。
「‥‥」
視線を上げて彼を見れば、
その額にびっしりと汗を掻いていた。
眉間には皺が刻まれ、苦しげな顔をしている。

私なんかよりもずっと、もっと、苦しいんだと分かった。

――昔、彼が言っていた事がある。

『痛いとか辛いとかそういうんじゃなく‥‥好きな女を抱くもどかしさってやつだ。』

だから、おまえが気に病むことは無いのだと。

多分、彼は私の身体を気遣ってくれてるんだと思う。
自分の欲望のままにかき抱いて傷つけないようにしてくれてるんだと。

「‥‥どうした?」

じっと見つめていると彼は訊ねてきた。
私は何でもないと誤魔化す代わりにちゅとその唇に唇を重ねて、甘えるように言う。

「すき」

この人がすき。
だいすき。

「すきです」

あいしてる。

もう一度ちゅと唇を重ねると彼は困ったような顔で笑った。

「おまえ‥‥本当にかわいいな。」

かわいい、という言葉はすごく照れる。
あまり私には相応しい言葉ではない気がするから。

「かわいいよ。」

すごく、と彼は迷いもなく言ってのけ、ゆったりと腰に手を回した。
くる、と思った時には強い力がぐいと私の身体を持ち上げた。
びりっと強い刺激がまたまた走る。
「あぁっ!」
再び突き破るくらいの勢いで腰を下ろされ、私は腰をくねらせた。
きゅうとその瞬間彼を締め付けてしまい土方さんは顔を顰めながらいいぞと艶っぽい吐息を漏らした。

「‥‥おまえの、好きなように動け。」

そう言いながら彼も限界が近かったらしい、ずぐずぐと下から何度も突き上げてくる。
快楽から逃れようとするのか、それとももっと味わおうとするのか、私は彼の動きに逆らうように、また合わせるように腰を揺らした。

「あ、そ、んなっ奥っ‥‥」

ぐじゅぐじゅと濡れた音が繋がった所から聞こえてくる。

しがみつき、胸を逞しい男の胸板に押しつけながら私は何度も何度も腰を揺らした。
そうしながら口づけをせがめば彼は苦しげに、嬉しそうに笑って応えてくれる。

「なに?奥がいいのか?」
「やっ、んっ、いいっ」

どっちなんだと苦笑交じりの掠れた声が聞こえた。

そのままもうどうにかなってしまいそうだった。
熱くて。
苦しくて。
でも、気持ちよくて。
すごく、幸せで‥‥

「土方さっ‥‥ひじっか、さっ‥‥」

ああ、と空気を震わせ、甲高い自分の声が広がる。
もう恥ずかしいとかそういうのは分からない。
ただ、彼の熱を、感触を、与えてくれる快楽を‥‥むさぼった。

「名前で、呼べ――」

突き上げながら彼はそう命令した。
命令しているくせにどこか懇願するような響きがあるのは‥‥どうしてだろう。

「歳三さ‥‥としぞっ‥‥さっ‥‥」

私は名前で呼んだ。
他の誰とも違う特別な呼び方で彼を呼んだ。
愛しい人を。

「っっ‥‥っ‥‥」

甘く掠れて余裕のない声が私を呼んでいた。

抱き潰すような、でも決して壊す事のない強い力が私を抱きしめている。

それが泣きたくなるくらいに愛おしい。

「としぞ‥‥さっ‥‥すきっ‥‥」

好きです。
幸せです。
でも、
少しだけ、
怖い。

幸せすぎる事が。

そんな事を言ったら、彼はどんな顔をするだろう。

きっと、
不安になった分だけ私を抱きしめてくれるんだろうな。
そして私は単純だけど、それだけで幸せになれる。


やがて何もかもが曖昧になる中、私たちはどちらがともなく上り詰め‥‥
世界が一瞬にして真っ白に染められた。



「‥‥は‥‥はぁ‥‥」
荒い呼吸ばかりが聞こえる。
言葉がでない。
絶頂の余韻に浸りながら身体を逞しい身体に預けた。
どくんどくんと内部とふれ合った胸から鼓動を感じる。
汗が背中をこぼれ落ち、もうほとんど纏っているのかいないのか分からない襦袢に染みこまれていく。
そうして少しだけ呼吸が落ち着いた頃、土方さんは私の首筋に唇を寄せてきた。
ちり、と僅かな痛みが肌を走る。
見えるところにはつけないでくださいねと内心で呟きながら部屋中にあふれかえる着物を改めて見回した。

「‥‥土方さん‥‥」
「ん‥‥?」
呼び方がまた戻っている私に彼は苦笑を漏らしながらなんだと訊ねてきた。
「私に着物を買ってくれたの‥‥大鳥さんに対する対抗心でしょ?」
あるいは、嫉妬?

訊ねれば彼は一瞬黙り込んだ。
ただ図星というのは僅かに震えた身体で分かる。
私はくすっと笑って、愛しい旦那様にしっかりと抱きついた。

「嬉しいですけど‥‥そんな事しなくても、ただ土方さんと一緒にいられるだけで幸せですよ?」

着物を買ってもらえるのが嬉しいんじゃない。
贅沢が出来るのが嬉しいんじゃない。
あなたと一緒にいられることが嬉しい。
あなたに愛される事が嬉しい。
傍にいて、笑ってくれるだけで――私は嬉しい。

そう告げれば土方さんの身体が一瞬びくりと震えた。
それから、強ばった身体は、ふ、と抜けるような溜息めいた笑い声で緩み‥‥

「おまえは‥‥もう‥‥」

苦笑交じりの声が聞こえ、背中に回された腕に力が込められる。

「本当に、いい女だな。」
「土方さんの妻ですから。」
ふふと笑いながら言うとそうだなと男は頷く。
やがてしっかりと私の背中を支えたまま、また着物の海に沈められ、
「え‥‥ちょ‥‥っ!?」
一旦それをずるりと抜かれたかと思ったら横たえられ、足を広げられてまた埋められる。
「や、だ、なんでっ‥‥」
さっき達したばかりだっていうのに土方さんのはもうすっかり熱く固くなっていて、私は咎めるように睨み付けた。
元気すぎると内心で文句を言えば彼はにやにやと笑みを浮かべて言った。

「おまえの中、気持ち良すぎるんだよ。」

だから、ずっとこの中にいたくなるのだと‥‥腰を緩やかに動かしながら言う。

年甲斐もなく‥‥なんて、人の事は言えないかも知れない。
私も身体の奥からじわじわと熱と快楽がこみ上げて、すっかり身体は反応し始めている。

もう。
と私は頬を膨らませ、改めて彼の首に手を回した。

その時ふと、視界の隅に美しい紫紺が映り込んで‥‥

私は笑った。

「土方さん。」
「うん?」
「あの着物‥‥土方さんみたいですね。」
彼の瞳の色と似ていて。
彼のようだと思った。
「‥‥なんだか、あなたに包まれてるみたいで‥‥嬉しいです。」
そう呟いた私に彼は一瞬、困ったような顔になり、そしてすぐに、
「すげぇ殺し文句。」
と嬉しそうに笑って、唇を重ねてきた。


ねえ。
もう一度彼を呼ぶ。
甘くなる吐息の間に。

「お正月には買って貰った着物を着ますけど‥‥」

でも、と意地悪く目を眇めて、

「‥‥すぐには脱がさないでくださいね?」

甘えたような響きのある言葉には、別の意味を込めて――

「努力する。」

愛する人はそれをしかと受け止めて、
やっぱり私と同じように、
笑った。






お正月ネタとして以前、書いたものを加筆。
修正の後、アップしてみました。
とりあえず土方さんの独占欲っぷりが出れば
いいなと思ってな、ものです。

遅ればせながら、
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますです☆

2011.1.10 蛍