割とよく、千鶴には憧れの眼差しで見られることがある。

  同じ同性でありながら、その強さや、聡明さ、それから美しい顔立ち、気配り上手な所など、千鶴からすれば羨ましい所
  ばかりがにはあるらしい。
  大した人間ではない‥‥とは思っているが、それでも千鶴には憧れの存在、らしい。
  まあ蔑まれるよりは、いい。

  しかし、
  それはどうにも居心地が悪いと思う。

  「‥‥え、ええと、千鶴ちゃん?」
  羨望の眼差しでじっとこちらを見る千鶴を、は少しばかり顔を引きつらせて呼ぶ。
  遠慮無くじっとこちらを見る目は真剣だ。
  しかし、見ている先が悪い。

  普段、男の裸を見てもなんとも思わず、また男に肌を見られた所でなんとも思わないではあるが、

  「‥‥み、見過ぎ。」

  居心地の悪さを覚え、とうとう胸をその手で覆った。



  は普段、男装をしている。
  それは千鶴も同じではあるが、二人には決定的に違う所があった。

  胸だ。

  千鶴には、胸がない。
  いや、正直にはあるのだが、本当になだらかな膨らみがある程度で、それをサラシで潰すという必要性はないらしい。
  しかし、は違う。
  きつくサラシを締めて、その上から胸当てをつけているせいで分かりにくいが‥‥サラシを外すとその下には大人の成熟
  した身体があった。
  そう、
  彼女は胸が大きいのだ。

  初めて目にしたとき、千鶴は驚いたというより、正直、落ち込んだ。

  とは二つ三つしか年齢は違わないはずなのにこうも違うものかと、それはひどく落ち込んだものだ。

  当人曰く、
  「邪魔だからない方がいいよ」
  という事だが、それはある人の意見だ。
  無い人間からすれば羨ましい限りである。

  「いいなぁ‥‥さん。」
  胸が大きくて、と千鶴は羨ましそうに呟きため息を零す。
  彼女の胸は千鶴の手に余る。
  多分、男の手には丁度いい具合か‥‥もしくは少し溢れるかもしれない。
  それは即ち大きいのだ。
  それに形も綺麗だし、柔らかそうだし、瑞々しい。

  「‥‥」

  一方自分の胸を見下ろす。
  ぺったり‥‥というのではないが、申し訳程度にある膨らみ。
  小振りな上向きのそれは、まだまだ子供みたいなそれだ。
  自分の手でも収まってしまう。
  男の人となれば‥‥もうなんか‥‥申し訳ない感じがした。

  「私も、大きくなるんでしょうか‥‥」

  ぼそっと呟き、千鶴は大きく肩を落とした。
  その呟きにはそりゃ、と笑いを漏らす。
  「きっとなるって!
  千鶴ちゃんは、まだ、若いんだし‥‥」
  まだこれからだよ、と明るく励ますような彼女の言葉に、千鶴は深い溜息を零した。

  「自信がありません‥‥」
  「いや、そんな落ち込まなくても‥‥」
  「‥‥‥」
  「ほ、ほら、好いた男に揉まれでもすれば大きくなるって!」

  ここに幹部の連中がいたら、何とも複雑な顔をしただろう。
  おまえには恥じらいはないのかと突っ込まれたかもしれないが、気にしない。

  多分まだ千鶴は男を知らないだけだ。
  そう、
  知ればきっと、自分みたいに大きくなるに違いない。
  だから安心して‥‥と言いたかったのだが、それは全く千鶴の耳に届いていなかったらしい。
  いや、それどころか、

  ふにゃ、

  「‥‥‥‥‥」

  そんな音が聞こえてきそうな感触に、千鶴は息を飲む。
  はといえば、少女の突然の行動に目をまん丸くした。

  ええと、
  これはなんだ。
  夢か。
  それとも、幻か。

  いや、違う現実だ。

  は表面には出ていないものの狼狽えている自分に少しばかり驚いた。

  いや、狼狽えもする。

  だって、千鶴がだ。
  あの千鶴が、
  突然人の胸を掴んだのだ。

  これはあれか‥‥
  沖田と一緒にいすぎたせいか。
  あいつが毒したのか。
  そうかそういうことか。
  傍にいると性格が似るというが、ここが似てしまったか。
  これはいかん。
  断じていかん。

  「‥‥千鶴ちゃん‥‥」
  は眉間を揉みながら彼女を呼んだ。
  すると、彼女は真剣な面もちのまま、手の中にある柔らかさをもう一度むにゅと揉んで、

  「私のと全然違う‥‥」

  ひどく落ち込んだ声を漏らすので、はもうそれ以上何も言えなかった。



  「総司‥‥」
  「あれ、どうしたの‥‥すごい疲れた顔。」
  憔悴しきった顔の彼女に呼ばれ、沖田はひょいと首を傾げた。
  どうかしたの?
  と訊ねれば、彼女は深いふかーい溜息を漏らし、
  いらん世話かもしれないけど、
  と前置きをして、こう言った。


  「千鶴ちゃんの胸、大きくしてやって――



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千鶴ちゃんの棟がつるぺただという公式の情報より
浮かんだネタ。
千鶴ちゃんはトリプルAらしいですが、
65のFくらいです。