とんとんと小気味の良い音が聞こえた。
  なんだか聞いているこっちが楽しくなりそうな、鼻歌と足音。
  それから、ふわりと香る、食欲をそそる香り。

  「‥‥」

  ぱちりと目を覚ませば、薄闇に光が差し込んでいる。
  障子の向こうは明るかった。

  少しばかり気だるさの残る身体を、ごろりと横に転がせば、隣にはもうそいつの姿はない。
  ただ微かに残り香だけを残して、そいつは消えていた。

  とんとん。
  とそう離れていない厨から聞こえるのはそいつがさせている音だ。

  ああもう、一緒に俺も起こせと言っておいたのに‥‥

  一人、心の中で呟いて僅かに敷布に残る温もりに触れ、それから身体を起こした。


  また、新しい一日が始まった。



  「あ、おはようございます。」
  厨に入ればは足音に気付き声を掛けてくる。
  きちんと身支度をし、前掛けをかけたそいつは、いつもの笑顔を浮かべた。
  一方俺の方はまだ寝起きで‥‥ああ、と返事を返すしか出来ない。
  顔はあらったものの、まだちょっとばかり、眠気が引いちゃくれねえ。
  「まだ眠そうな顔ですね。」
  大丈夫ですか?
  と聞かれて、
  「‥‥ああ」
  さっきと同じ返事が出た。
  よっぽど俺は眠たそうな顔をしているらしい。
  はじっとこちらを見た後、
  「もう少しで出来るので、それまで眠っててくれて構いませんよ。」
  と言ってきた。
  いや、そういうわけにもいかねえ。
  応えたかったが、生憎出たのは覇気のねえ「ああ」って言葉だけだった。

  暫くは案じるように見ていたけど、くつくつという何かが沸騰する音に慌てて背を向けると、また料理に戻ってしま
  った。

  にだけ用意をさせて俺だけ眠ってるわけにもいかない。
  とりあえず、俺は土間へと降り、の背後へと回って彼女の手元を覗き込んだ。

  どうやら汁物に入れる野菜を刻んでいるらしい。
  色のいい大根は小気味のいい音を立てて、小さくなっていく。
  まあ、の切る野菜は少々でかかったりもするけど‥‥

  「‥‥もう少しでお味噌が切れるんで、今日買いに行ってきますね。」
  「ああそうだな‥‥」
  俺も何か買い足さなければいけないものがあったような‥‥と言いかけ、

  ふわとが僅かに動いた瞬間、首筋から仄かな香りがした。
  甘い、
  俺の好きな香り、だ。

  くんとその香りに誘われるように首筋に顔を埋めると、
  「わっ!?」
  は驚きに声を上げた。
  危うく包丁を取り落としそうになり、彼女は咎めるように言う。
  「もー、危うく手を切るところだったじゃないですか。」
  「悪い」
  全然悪びれの無い詫びを入れ、俺は強く香るそれを抱きしめるように脇の下から手を差し込んだ。
  とりあえず危ないのでその手から包丁は離させ、抱きしめる。

  「なに?」
  「うん‥‥ちょっとな」
  すりと首筋に鼻先をすり寄せれば、が小さく身動いだ。
  くすぐったいのか、
  「ん」
  と鼻から抜ける声が妙に色っぽくて‥‥
  ああ、そういえば久しいなと俺は別の事を考えてしまった。

  そうすると、身体ってのは正直で、

  「土方さん‥‥」
  「誰だ?土方ってのは‥‥」
  そう言うと彼女は一瞬、口を閉ざした。
  それからまだ慣れない様子で、
  「と、歳三さん?」
  と俺を呼ぶ。
  夫婦になってまで「土方さん」呼ばわりはなしだ。
  「なんだ?」
  名を呼ばれて応えれば、彼女はその‥‥と言いにくそうに視線を落とし、ついでに頬を染めて小声で言った。
  「あの‥‥当たってます。」
  腰に。
  と。
  何をとは、言わないが言われた事は分かった。
  何故なら、
  「あててるんだ。」
  わざとだからだ。
  俺はの腰に、既に反応を示し始めたそれを押しつける。
  柔肉を布の上から敏感に感じ取った俺の一物はそれだけで、熱と固さとを持ち始めた。
  「と、歳三さん‥‥」
  「ん?」
  後ろから抱きすくめたまま、耳の裏に口づける。
  音を立てて離せばはびくっと身体を震わせ、その瞳を潤ませた。
  「お、おっきく‥‥なってますっ」
  「知ってる」
  「な、なんで‥‥」
  「そいつは簡単な答えだ」
  俺はふっと耳に息を吹きかける。
  それだけでふにゃとの足から力が抜け、まともに立ってもいられなくなる。
  腕に力を入れて倒れ込むのを阻止すると、愛しい妻に、囁いた。

  「俺が‥‥おまえを抱きたいと思っているからだ」



あるのはじまり



ちょっとえっちぃ土方さんが書きたかった。