俺には腐れ縁の友人がいる。

  「雪村さん!」

  そいつの名前は雪村
  さばさばした気持ちの良い、だけど、とんでもなくふざけた女だ。

  「俺と付き合ってください!!」

  だけどそいつは、見た目が綺麗で。
  とにかくモテる女だった。
  中身、あんなんなのに、だ。

  「‥‥ごめんなさい。」

  だけどそのふざけた女は、いつだって、真摯に相手に向き合った。
  真っ直ぐな琥珀色は、
  確かに、綺麗だ。


  俺には腐れ縁の友人がいる。
  とんでもなく綺麗な、ふざけた女だけど‥‥
  俺は、友人以上の感情を、そいつに持っている。



  「トッシー!ネクタイ結んでー!!」
  ふざけた呼び名で俺を呼びながらそいつはばたばたと教室ん中に入ってきた。
  俺は剣呑とした視線を向け、だぁら、と不機嫌そうに呻く。
  「そのふざけた呼び方はヤメロって言ってんだろうが、このどあほ。
  てめえ、その頭ん中に脳みそ詰まってんのか?」
  もうほとんど挨拶みてえになってる暴言に、そいつはいつものように肩をひょいと竦めた。
  「ミジンコ並には?」
  「大した脳みそだな。」
  はっと笑い飛ばすと、それよりも、とはネクタイを差し出してせがむ。
  「トッシー、結んで。」
  またかよ、この女は。
  俺は内心で呻いた。
  「こってり、山崎に叱られろ。」
  視線を教科書に戻すと、うわああとそいつは焦ったような声を上げた。
  「ごめんなさい!歳三さまっ!お願いします、ネクタイ結んでくださいっ!」

  風紀委員の山崎の説教は、長い。
  有名だ。
  たかだか服装検査といっても不備があると分かった日にゃ、軽く一時間の説教が待っている。
  正直、教師よりも面倒くせえ。
  それを身をもって体験しているは、これから待っている服装検査の為に俺の所にネクタイを結んでくれとやって来た
  らしい。
  んだが、

  「‥‥ったく、てめえはまだネクタイ一つまともに結べねえのかよ。」
  あきれ顔で言う俺にはネクタイを差し出しながらだって、と困ったような顔で言う。
  「自分で結ぶと、自分の首締めちゃうんだもん。」
  「ネクタイも結べねえとか、おまえはどんだけ不器用なんだよ。」
  まったくと言いながら差し出されたタイを受け取る。
  そうして立ち上がって、もうちょい近付けと指先だけで指示するとそいつは迷わず俺との距離を詰めてきた。
  「いやぁ、トシが器用で良かったよ。」
  「‥‥器用じゃなくてもこんなもんは出来るに決まってんだろ。」
  「えー?私、リボン結びしかできんよ?しかも縦結び。」
  「おまえの不器用加減は、大したもんだな。」
  「誉められた?」
  「誉めてねえよ。」
  ひょいとタイを首に回して、前に持ってくる。
  標準的な結び方だが、手早く柔らかい生地をくるりと指先で操って結び、最後に、タイの端を持って締める。
  視線を上げて、その時になってがしまりねえかおになっていた事に気付いた。
  つか、見ねえようにしていた‥‥というのが正しい。
  だって、この距離はすげえ近距離だ。
  うかつに見ちまうと、色々と、やばい。
  「‥‥んだよ、その顔。」
  にやにやすんじゃねえよ、気色悪いと言うとはそのにやけ面のまま言った。
  「新婚さんみたい?」
  「‥‥‥」
  ふざけんな。
  俺は内心で告げた。
  確かに新婚によくある光景っちゃ光景なんだが、
  「逆だろうが。」
  普通は旦那のネクタイを妻が結ぶもんだろうが、立場が逆だ、逆。
  「あ、そっか。
  じゃあ、私が締めてあげようか?」
  「おまえに締められた日にゃ、命の危険を感じるから止めておく。」
  「たっぷり愛情込めて結んであげるから。」
  「指鳴らして言うんじゃねえよ。締め上げる気満々じゃねえか。」
  「ひと思いに締めてあげます。」
  「‥‥ったく、てめえには女としての可愛げとかそういうものはねえのかよ。」
  「ないかな?」
  「微塵もてめえには女の魅力を感じねえ。」
  「ひどっ!」
  軽口には楽しそうに笑った。
  俺の言葉のどこに真実があるっていうんだろうな、全く。
  「ちょっと待て。」
  結び終えた途端、が離れようとする。
  それを引き留めたのは、別に名残惜しかったから、じゃねえ。
  いや、確かに名残惜しかったりはしたんだが、いつまでも近付いたまんまで平気な顔をし続けるのにも限界がある。
  「ネクタイ、襟からはみ出てる。」
  「おおう。」
  言うともう一度は俺の方に近付いてきた。
  だから警戒心が‥‥って、こいつは言うだけ無駄か。
  俺は溜息をつきつつ、襟の下にネクタイを仕舞い込んだ。
  そっとその時指先が肩に触れる。
  細い肩だ、と思う。
  じっと見つめながら指先を後ろに回すと、はしやすいように‥‥か、更に俺に一歩近付いた。
  もう抱きしめられるような距離に内心で「この鈍感」と罵りながら、それでも誘惑には勝てずにネクタイを正す振りをし
  て首の後ろを撫でながら、細く白い項を見つめた。
  すぐ傍には形のいい耳が。
  咬んだらどんな顔をするのか‥‥ちょっと見てみたい。
  けど、咬んだらきっとこんなの許しちゃくれなくなるんだと思うと、それは出来ねえ。

  「‥‥?」

  ちりと焼け付くような視線を感じてちらっと視線を上げた。
  見ればクラスメイトの何人かが、俺たちの方をじっと見ている。
  全てが男で、その全てが、俺を激しい嫉妬と羨望の眼差しで見ている。
  そいつらの誰もが俺みてえにに近付く事は許されていない。
  ざまぁみろ。
  俺は内心で優越感に浸った。
  だけど、多分そいつらの誰よりも‥‥俺は近しい所にいて、一番遠い所にいるんだと思う。

  何故ならば、俺の想いを‥‥そいつが知る事はないからだ。

  なんつーの?こういうの。
  生き地獄っつーのかね‥‥

  他人事みてえに小さく笑えば、突然、俺の腕の中‥‥じゃねぇけど、そいつが俺の胸に抱きついてきた。

  「っ!?」

  不意打ちに思わずぎくっと身体が強ばった。
  温もりが布を通して‥‥ではあるが、俺に伝わったのと、抱きつかれた事でそいつの‥‥その、胸が、俺の胸板に押しつ
  けられたからだ。
  俺はガラにもなく狼狽えた。
  それを声に出さなかった自分を誉めてやりてえ。
  「トッシー、大きいね。」
  いいなぁと暢気な事をは言った。
  「私の手、回りきらないよ。」
  こっちはそれどころじゃねえんだよ。

  必死に背中に手を伸ばせば、自然身体は押しつけられて胸が更に当たる事になる。
  頭んなかは結構なパニック状態だが、その一方で女って柔らかいな、とか、思ったよりもこいつ胸でかいな、とか‥‥そ
  んな冷静な事を考えている所もある。
  冷静‥‥つか、なんつうか‥‥考えてる事はとんでもねえこと、だな。
  仕方ねえだろ、俺だって男なんだからさ。

  ただ、俺に抱きついてる女はその事に関して全く気づいていないようだ。
  俺が男だって事も、自分が女だって事も。
  そう思うと、なんだかすげぇ悔しかった。
  あんまり悔しいもんで、

  「‥‥」

  ぎゅと、仕返しとばかりに華奢な背中に手を回して抱き返したやった。
  「ぎゃっ!?」
  ちょっと強めにすると、驚いたのか苦しかったのか、の口からこれまた色気のねえ声が上がる。
  ついでに事故とばかりに耳にキスをしてやった。
  そうして、腕を離すと、は驚いたように琥珀を見開いて俺を見上げてきた。
  いきなり何するんだ‥‥とか言いたげなそれに、それは俺の台詞だろと内心で告げながら、意地悪く笑う。

  「おまえ、ちっせえな。」

  小馬鹿にしたように言って誤魔化すと、は何をと拳を振り上げて声を上げるのだった。



  腐れ縁の友人‥‥から、好きな女、に変わった瞬間は、自分でも分からない。
  きっと些細なきっかけだ。
  だけどその些細なものから、俺は今まで見えていたもの、感じていたものが180度逆転したのを感じた。
  馬鹿げた発言にも愛しさを感じ、
  意地の悪い顔だって可愛いと思うようになった。
  なんでそんな状況になったんだと戸惑う反面‥‥それは最初から決められていた事なんじゃねえかな、とも思い始めた。
  運命ってのを信じちゃいないが、運命かな、とも。
  重症かもしれねえ。

  ただ、腐れ縁だったせいで、そいつの気安い態度がたまに‥‥辛く感じる事もある。

  俺の気持ちは変わったけれど、の気持ちは変わらない。
  つまり、今までのように気心の知れた友人、だ。
  しかもそいつは男だろうが女だろうが、心を許した人間にはひどく甘えるタイプで‥‥
  うっかり気を抜くと、暴走しちまいそうで、やばい。


  「トッシー、お待たせっ」

  ぱたぱたと近付いてきた足音だけでそいつなんだと分かった自分がどんだけ深みにはまっているのかというのが分かる。
  ひょいと覗き込んだ琥珀がそんな俺を見上げて、不思議そうに丸められた。

  「怖い顔‥‥そんなんじゃ女の子逃げちゃうよ?」
  「うっせぇ、てめえが待たせるからだろうが。」
  「そいつは申し訳ない!」
  「申し訳ないってんなら少しは悪びれろ‥‥行くぞ。」
  とっとと歩けと言って歩き出すと、は当たり前のように俺の横に並ぶ。
  薄暗い空に、俺たちの吐き出す言葉が白い吐息となって浮かんで、消えた。
  今日は随分と寒い。
  まあ、冬が近いせいもあるんだろうな。
  澄んだ空気のお陰で星や月は綺麗に見えるんだろうが、とにかく夜風が冷たいのはどうにかしてほしいもんだ。

  「‥‥しっかし、寒ぃな。」

  一人ごちてコートのポケットに手を突っ込む。
  突っ込んだ中もあんまり暖かくは無かった。
  生地がすっかり冷え切っちまってる。
  それはも同じようで、はーっと自分の手に息を吹きかけて暖めようとしていた。
  「‥‥おまえ、今朝手袋してなかったか?」
  と訊ねればは良く覚えてたね、と少しだけ驚いた風に目を丸くする。
  残念ながら、てめえの事はてめえ以上に覚えるような脳みそになっちまってるんだよ。
  それこそ、てめえが忘れちまってるような事も、だ。
  「さっきさー、平助がチャリなのに手袋忘れてきたって嘆いてたから、貸してあげたんだ。」
  「‥‥‥へぇ。」
  声のトーンが少し落ちた。
  平助のヤツ、明日ぶん殴る。
  俺は面白くねえと思いながら、努めて平静を装って視線を前に向けた。
  「お優しいこって。」
  「‥‥惚れるなよ?」
  茶化すみてえには言った。

  そいつは無理だ。
  もうずっと前からおまえには惚れてる。
  『ぞっこん』ってヤツだ。
  惚れるなって言われた所で、どうしようも出来ねえ所まで嵌ってるっての。

  「‥‥誰が。」
  それでも、俺はそんな事を言えずに、意地悪く返す。
  はデスヨネーと肩をひょいと竦めた。
  ひゅ、とその時冷たい風が吹きつけ、ひっ、と小さな悲鳴を上げてそいつは首を竦めて肩を強ばらせる。
  恨めしげに吹き付ける風を‥‥って見えやしねえんだけど‥‥前方を睨み付けて、寒い、と一言文句を零した。
  「トッシー、寒くないの?」
  「寒いに決まってんだろ。見てわかんねぇのか?」
  「‥‥分かんない。」
  「寒い。」
  ひょいと肩を竦めて言うと、はそういえばさ、と少しだけ滑りが悪くなった口を動かして言った。
  「トシって‥‥あんまり表情に出ないから何考えてるか分かんないよねー」
  「‥‥かもしれねえな。」
  もしかして、と言うおかしげな声が聞こえて、顔を覗き込まれる。
  琥珀は悪戯っぽい色を浮かべていた。
  無邪気なそれは‥‥とんでもなく汚してみたい衝動に駆られる瞳だった。

  「頭の中では結構変な事考えてたり?」

  ビンゴ――

  高校男子にしちゃ真っ当かもしれねえけど、女にとっちゃ変な事かも知れねえ。
  まあ、おまえ、限定、だけど、な。
  でもって今まさに変な事を考えている最中だ。

  無言になった俺にしてやったりと言った顔になる
  それを見下ろしながら、俺はすいと口元を緩めて、笑った。
  「かもしれねえな。」
  「‥‥まさかのムッツリ肯定発言っ!?」
  したり顔が僅かに驚いたような顔になる。
  認めたわけじゃねえんだが‥‥まあ、嘘ではないからそこは否定しない。
  オープンかムッツリか‥‥って聞かれりゃ、現段階じゃ、ムッツリ決定だろうし、な。
  これがもし、万が一にでも恋人にレベルアップしたときにどっちに転ぶか‥‥って聞かれたら難しい所かもしれねえ。
  まあ元より思ってる事を全部出すようなタイプでもねえし、

  ああ、だからこそ、そいつに俺の気持ちってのが全く気づいて貰えねえってわけなんだが‥‥

  実際良く、何年も片想いをしてられた、と思う。
  微塵も気づかれずに、だ。
  は基本、他人の気持ちには敏感な方で‥‥こと俺たちは昔っからずっと一緒にいるもんだから、どんだけ隠そうとし
  ても見破られちまう。
  家族さえ気づかねえような事に気づかれた時には、驚いたもんだ。
  だけど‥‥は事恋愛に関しちゃ疎いからな。
  告白されるまで気づかない、なんて事はザラだ。
  恋愛自体に興味がねえのかもしれない。

  いや、それってどうなんだ?

  俺、一生片想いかよ?

  そんなのゴメンだぜ。


  「土方君。」

  不意に、聞き慣れない女の声が聞こえて俺は立ち止まった。
  も俺につられて立ち止まり、先に振り返ったのはそいつの方だ。

  「‥‥」

  そうして、くい、と袖を引かれて振り返るように促される。
  振り返ると外灯の下に見慣れない女の姿があった。
  誰だ?
  と口の中で小さく呟く。
  全く見覚えのないその女は、あの、と呼び止めておいて、躊躇うように視線を落とす。
  僅かに目元が染め、恥じらうように、だけど、どこか意を決したような表情に、俺は察した。
  も、だ。

  「‥‥先、行ってる。」

  固い声でが言ったかと思うと、俺の制止も聞かずに歩き出した。
  気を遣ったんだろうが、俺は別に使って貰う必要なんて、ねえ。
  だって、告白されても、答えは決まっているからだ。

  「悪いけど、俺。
  好きな女いるから――」

  虚しい片想いだけどな。



  「っ」

  小さな公園で飴色を見つけた。
  そいつはブランコに座って、一人ぼんやりと空を見上げていた。

  「‥‥トッシー?」

  呼びかけに驚いたように声を上げ、驚いたように目を丸くして俺を見る。
  なんでここにって顔だ。それは俺の台詞でもある。
  確かに、この公園は俺たちの通学路には入ってねえ。
  通学路から少し外れた所にある公園だから。
  でも、俺は知ってる。
  こいつが‥‥何か一人で考えたい事があるとこの公園に来る事。
  その公園が、両親によく遊んで貰った公園だから。

  「真っ直ぐ帰れってんだ、この馬鹿。
  危ねえだろうが。」
  僅かに弾む息を整えながら窘める。
  はごめんと謝ったけれど、立ち上がろうとはしなかった。
  この時ばかりは申し訳なさそうな顔になって、俺は気にするなと言おうとした。
  それよりも前に、

  「ねえ、トシ。」

  の方が口を開く。
  なんだよと訊ねると、は視線を上げずにさっきのさ、と言いにくそうに訊ねた。

  「告白?」
  「‥‥まあな。」
  「オッケーしたの?」
  「‥‥いや。」

  断ったと、短く告げれば、は小さく肩を揺らした。
  俯いているせいで表情は見えない。
  続いて聞こえた小さな笑いで、笑ったんだと知った。
  「あれ‥‥西女の子だよ?」
  「‥‥知り合いか?」
  「や、違うけど‥‥多分そうだと思う。可愛かったから。」
  「‥‥‥‥」
  可愛いか?
  いやまあ、普通に整った顔立ちはしてたと思うんだが、なんせ比較対照があまりにレベルが高すぎてわからねえ。

  首を捻って黙り込むと、はきぃと錆び付いた音を立てて少し、ブランコを揺らして、
  あのさ、
  と、零した。

  「トシってさ‥‥なんで私に付き合ってくれんの?」
  「‥‥‥‥」
  質問の意図が分からずにそいつを見る。
  は続けた。
  「いやほら、昔っから私に付き合ってくれてたけどさ‥‥ほら、私たちももう高校生なわけでしょ?」
  「‥‥‥‥」
  「高校二年生と言えば、青春真っ直中なわけでしょ?」
  「‥‥‥」
  「だから、彼女、とかが出来ても不思議じゃないと思うんだ。」
  「‥‥‥何が言いてえ?」
  回りくどい言い方をするのはらしくない。
  多分、言いにくいんだろうなって事は分かったが、俺もあまり気が長い方じゃ、ねえ。
  持って回ったような言い方をされると変に勘ぐっちまいそうだから、それならすっぱり言って欲しくてそう告げると
  の肩が少し強ばった。

  「‥‥彼女とか、作っても、良いんだよ?」

  少し、寂しそうな声。
  恐らくそれは、親離れをしなきゃいけねえとか、そういう身内に対する寂しさなんだろう。
  には身寄りがねえ。
  だからってんじゃねえが、俺はそいつの両親が亡くなった頃からは前よりももっとそいつと一緒にいるようになった。
  俺がそいつを好きになった大きなきっかけがあったとしたらそのあたりだったのかもしれねえ。
  両親を喪っても、気丈に泣かなかったそいつの強さと泣けねえ弱さに惹かれたのがきっかけかもしれねえ。
  小学生だったかもしれねえが、紛れもなく恋をした。
  それから高校までってんだから、随分と気の長い事だと思う。

  だけど、
  それほど長い間思っているからこそ‥‥その言葉はちっとばかり、堪えた。

  狡いと思った。

  人の気も知らねえで、と腹も立った。

  だけどでも、それよりもなによりも、

  俺は思った。

  そんな風に寂しそうにしてる、そいつを、何が何でも一人に出来るもんかって。

  俺とは決して家族にはなれねえ。
  俺はの親でもなければ兄弟でもねえから。
  どうしたって、血の繋がりがない俺は、にとってはいつか離れていくかもしれない人間だ。
  だけど、唯一、そいつを一人にしなくて済む方法がある。
  他人である俺が、そいつの家族になる方法が。

  高校生が何馬鹿な事言ってんだって思うかもしれないが、俺は、本気だった。

  「‥‥‥とし‥‥うわっ!?」

  反応の無くなった俺に不安になったのか、が顔を上げるのと同時に俺は手を伸ばしてそいつの腕を引っ張った。
  乱暴に引っ張ったせいでガシャンとブランコのチェーンが抗議でもするみてえに音を立てる。
  少しの間、かしゃかしゃと揺れて、やがて止まった。
  止まった頃、
  はまんまるく目を見開いたまま、
  漸く、

  「え?」

  と一声だけ上げた。

  琥珀は俺の目の前にある。
  普段はもう少し、下にあるのに、今は同じ高さだ。
  代わりに、そいつの足は地面から離れて、浮いている。
  いつもは離れている手は、そいつの腰と背中に。
  しっかりと抱え上げれば離れていた身体はぴったりとくっついた。

  は何度かぷらと足を揺らした後、漸く、自分の置かれている状況が分かったのか、

  「と、トッシー!?これはいかに!?どういうこと!?」

  慌てて俺の腕から逃れようとした。
  とは言っても胸を押し返すしかないようで、それをぐっと両手で抱きしめて動きを封じると、は驚いたような顔にな
  った。
  この時になって、初めて気付いたのかも知れない。
  俺と、そいつの、力の差。

  つまり、男と女の、差。
  そして、
  俺が、紛れもなく男だって言う事。

  「‥‥と、し‥‥」
  「好きだ。」
  「っ!?」

  困ったような顔は、ストレートな告白に、固まった。
  まさに寝耳に水って感じで、心底信じられないって表情を向けられ、微塵も意識されていなかった事に腹を立てながら、
  それならば今から意識をしろと言うように俺はそいつに男たる俺の部分と気持ちを見せつけた。

  「好きだ。」

  真っ直ぐに琥珀を見つめて告げれば、その言葉の意味が段々分かってきたのか、その頬に赤みが差してくる。
  「あ、あのっ」
  真っ直ぐな視線に耐えきれないというように伏せられ、だが、下ろせば俺の腕ん中っていう状況をまざまざと突きつけら
  れるわけで、終いにゃぎゅっと目を閉じてしまった。
  「あ、相手、間違えてるでしょ!」
  「間違えてねえよ。」
  「だ、だって!私には女としての魅力なんてないって昼間っ」
  「ありゃ、嘘だって気付け、ばーか。」
  「馬鹿って‥‥」
  「おまえの事が好きだ。」
  「と‥‥とし‥‥」
  「おまえの表情も行動も、なんもかんもが可愛くて‥‥好きだ。」
  「っちょ‥‥」
  「おまえの見るもの全てに嫉妬するくれえに‥‥」
  「ま、待ってってば!」
  「おまえが、この世で一番、好きだ。」
  「っ!!?」

  想いを告げれば、顔を真っ赤にして、俯いて小さくなっちまったそいつがすごく可愛くて‥‥なんつうか、食っちまいた
  いくらい、可愛くて‥‥あっち的な意味でも、だ。

  今すぐにここで奪ってしまいてえっていう野蛮な考えを、苦笑一つでねじ伏せると代わりにそいつの額に唇を寄せた。

  「ひゃっ!?」
  驚いては目を開ける。
  やっと、見た。
  俺は、見開かれた琥珀をじっと見つめて、ただもう一度‥‥想いを音にした。

  「、好きだ。」

  その言葉にびくんっとは身体を震わせたけれど、恒例の「ごめんなさい」は口からでなかった。


 Are you ready?
 I'm ready.



  リクエスト『現代パラレル同学年の土方さんに告白される』

  同い年の土方さん‥‥というのはなんというか超新鮮で、
  彼は同学年だったらどんなんだろうか?というのを考えて
  いくと、なんとも表面上クールなムッツリが出来上がりま
  した(笑)
  多分、告白は割とストレートにするんじゃないかなと‥‥
  言うことでドストレートに「好きだ」と言わせてみました!
  恐らく「どういう所が?」と聞いたら事細かく教えてくれ
  ますよ( ´艸`)
  聞く際はこちらが赤面必至ですけどね☆

  そんな感じで書かせていただきました♪
  リクエストありがとうございました!

  2010.12.5 三剣 蛍