夢は何か。
と聞かれた。
将来、新選組を離れたら‥‥おまえはどうしたいかと。
そう聞かれた瞬間、
私は足下が揺らいだ気がした。
「私には‥‥その先なんてありません。」
事実を言葉にすると、なんてちっぽけな人間なんだろうと、自分の事を思った。
左之さんがいつか嫁さんをもらって慎ましやかな生活がしたいとか、新八さんが道場開いて好きなだけ暴れ回りたいとか
この戦いの先を見据えている事を知った。
見据えているのか、それとも、この先を信じて戦っているのか‥‥それは分からない。
でも、彼らにはこの戦いの先があるのだと。
それを知って、私は少しだけ、自分がつまらない人間なのだと気付いた。
私には、この先がなかった。
私がこの世に生を与えられたのは、8年前。
近藤さん達と出会ったのが、そのはじまり。
あの時から私の望みは変わっていなかった。
彼と。
彼らと。
共にあること。
彼の為に戦って、彼を助けること。
それだけが私の全てで‥‥それが、私という存在だった。
だから、もし、戦いが終わった後。
平和になって近藤さんが望む世界が手に入った時。
‥‥私の存在は‥‥必要なくなる。
戦うことが無くなれば、私の存在は必要なくなる。
そうしたら‥‥どこぞで朽ち果てるのが一番いいんだろうか?
私がいたら争いを生み出してしまうかもしれない。
だって、
戦う事しか出来ない。
戦う事が、全てだと思っているから。
そう、答えると、土方さんはため息を吐いた。
「おまえは本当にどうしようもねえ奴だな。」
失礼な、とは唇を尖らせた。
「なんだってそんな夢のねぇ‥‥」
この先に望む事がない、だなんて夢のない。
そう言われて私は反論した。
「じゃあ土方さんはあるんですか?」
「ああ、あるぜ。」
「なに?」
「教えねぇ。」
万が一総司の耳にでも入ったら面倒くせぇ‥‥と彼は呟く。
でも、そっか。
土方さんにもこの先の夢があるんだ。
あれかな‥‥
やっぱり、武士らしく高みを目指すのかな?
ああ、それとも意外に左之さんみたいに平和な家庭とか?
それは似合わないけど、この人は案外子煩悩になりそうだ。
戦う事から解放されたら、彼は、本来の穏やかさを取り戻すんだろうな。
その時きっと、総司は彼を見て「気持ち悪い」とかなんとか言うんだろう。
くすくすと私は笑った。
「なあ、。」
ふいに呼ばれて顔をそちらへ向ける。
彼は立てた片膝に腕を乗せて、虚空を見つめていた。
「夢がねえってんなら‥‥」
彼は目を眇めて、彼は口を開く。
「夢が出来るまで、俺が傍にいてやろうか?」
彼は、そう言った。
戦いの先。
何も持たない私が、夢を‥‥生き甲斐を見つけるまで。
共にいてやろうか、と。
「土方さん‥‥」
「ほら、お前は俺の助勤だろ。
お前が戦いに明け暮れるようになったのは、俺のせいでもあるだろ。
そのせめてもの償いってわけじゃねぇけど。」
と彼は早口に並べた。
それから、一息を吐いて、こちらを見る。
少し、照れたようにくしゃっと髪を掻き上げて、
「見つかるまで‥‥俺が傍にいてやろうか。」
そう、言った。
泣きたくなるくらいの優しさに、私は目元を眇めた。
泣くかわりに、かわいげのない言葉を口にしてみる。
「それ‥‥なんか求婚されてるみたいです。」
茶化せば、きっと彼は言うんじゃなかったと呆れることだろう。
そう思っていたのに、
「‥‥」
彼は口を噤んで、目元をうっすらと染めた。
「悪ぃかよ。」
憮然とした面もちで、口から零れるのは拗ねた響きの声。
悪いかよ。
と言われて私はきょとんとする。
そんな私の反応に、彼は少し苛立ったようにがしがしと頭を掻いた。
あー、もうと零してからこちらをもう一度見て、はっきりと告げる。
「出来るなら、お前の夢を支えてやりてぇ。」
「‥‥」
「ただ、一人の男として。」
「‥‥」
だから、
と彼は一度、深く息を吸った。
そうしてから、
「全部終わったら――俺と一緒になれ。」
いつもの彼らしい言葉。
求婚というよりは命令じゃないかと私は思った。
拒否権を与えないのは本当に彼らしい。
普通はここ、甘い雰囲気にでもなって‥‥
ああ、でも、私も私だ。
甘い雰囲気に、くすぐったくなってしまった。
真っ直ぐにこちらを見つめるその人に、たっぷりの間の後、私は意地悪く笑いかけた。
「あんたみたいな面倒な人は御免です。」
驚きに一瞬、男の目が丸くなる。
してやったりと心の中で舌を出して、私は彼の唇を――静かに奪った。
あなたのとなりで
の夢という話で書いたお話。
彼女にとって大切なのは今なので、戦いが終わった
後のことは考えていません。
そんな彼女の事を、これからも一緒に‥‥という
土方さんのプロポーズ話。
しかしヘタレ炸裂(笑)
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